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力の使い方。(4)
足を、もう少しずらしてみると、そこには長いヒゲがあって……。
顔を下に向けて、さっき、ピンッと立った何かがある頭を後ろ足で擦ってみると、そこには……。
思ったとおり、三角形の柔らかい感触があった。
これって、これって!!
僕、やっぱり狐になったの?
自分が何なのかをきちんと知るため、伸ばした足で、頭にある三角形のものを、何度もピコピコ触って確認していると……。
「比良、その仕草……とてもかわいい」
クスクス笑う、あたたかな声が頭上から降ってきた。
『むぅうううっ!』
僕が必死になって、今自分がどんな姿をしてるのか確認しているっていうのに、紅さんは声を出して笑ってくる。
ムムゥ……。
なんかすごく理不尽だよね。
「はいはい、睨 まない。その顔も可愛いだけだよ」
ちょこん。
目的地に辿り着いたのか、岩場に下ろされた。
すぐ下には、綺麗な透き通った水がある。
周りを見渡してみると、深い緑色に包まれた木々が、この泉を守るようにして囲んでいた。
僕は身体を前のめりにして、水に映った自分の姿を見下ろす。
「危ないよ、この泉は今の君だと、とても深いものになっているからね」
僕のお腹を固定して水の中に落ちないよう、支えてくれる。
水面に映ったのは、綺麗な紅さんと……。
紅さんの手に支えられている、銀色の毛並みをした小さな狐一匹だけ。
僕じゃない。
だけど――……。
僕が右足を動かしたら、水面に映った小さな狐の右足が動く。
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