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力の使い方。(5)
左の耳をヒョコヒョコさせたら、水面に映った小さな狐の左耳もヒョコヒョコする。
……ああ。やっぱり僕、狐になっている。
これが……紅さんに与えてもらった妖狐の姿。
でも、今の僕は妖狐っていうより、チワワっていう感じだ。
お尻を振ってみると、もこもこした尻尾が一本、揺れている。
体長はとても小さい。
後ろにいる紅さんがとても大きく見える。
多分、全長は30センチくらいかな?
だからだね。紅さんを見上げるの、とても大変だったもん。
「本来、妖狐は九つの尻尾があるんだ。でもね、わたしは君に少しずつしか妖力を与えていない。身体に無理がいくからね。少しずつ妖力を注いでいくつもりだよ」
……それって、それってつまり……。
これからも、ずっと抱かれるっていうことでしょうか?
……チラリ。
紅さんの顔を見上げ、確認してみると――。
僕が考えていることを理解したかのように、にっこりと微笑まれてしまった。
「覚悟しておくといいよ。君の腰は今に使い物にならなくなるかもしれないね」
『……っつ!!』
紅さんはどうして、そんな恥ずかしいことをサラッと口にできるの?
紅さんの手に収まっているのがどうにも居心地が悪くなって、そこからスルリと抜け出した。
乗っていた石から飛び下りる。
少し走ってみると、すごく気持ちがいい。
さっきまでの恥ずかしいっていう気持ちを忘れてしまうくらい、とても心地いい。
四つの短い足で、緑色の絨毯を蹴る。
風に乗って、空を飛ぶような、そんな感じがする。
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