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力の使い方。(6)

 するとどこから飛んできたのだろうか。  小さなモンシロチョウが、走る僕の隣にぴったりくっついてきた。  ……気持ちいい。  走る僕と一緒に、景色が回る。  グルグル、グルグル……。  真っ白なモンシロチョウと一緒に、どこまでも駆けていく。  風が僕にまとわりついて……世界と一緒に走るんだ。 「比良、君ばかり、ずるいな……」  いくらか、永遠に続く、絨毯の上を走っていると、大きな銀色の狐が、僕を押さえた。  一緒に走っていたチョウは、ひらひらと空高く飛んでいく。  僕の目の前には、今の僕よりもずっと大きい、銀色の狐――ううん、狐じゃない。妖狐だ。  仰向けになっている僕を、真紅の瞳が射抜く。  この妖狐は紅さんだ。 『比良、もうすぐだよ』 『えっ?』 『降ってくる』  降って……くる?  紅さんがそう言ったすぐ後――。  今まで雲ひとつなかった真っ青な空に、分厚い雲が現れた。雲は、やがて力強い太陽を覆う。  そして……。  ……ポツ。  真っ青だった空は、グレーの分厚い雲に覆われ、僕の鼻にひと雫が落ちてきた……。 『これは、雨?』 『比良、感じてみて。雨としてではなく、一粒の粒子として――これを』  ひとつぶの……りゅうし……。  紅さんの言葉に耳を傾け、降ってくる雫に集中する。  ……ポツン。  ポツン。  水の粒はやがて、たくさんの雨になって、地上に落ちてくる。  僕は紅さんに言われたとおり、雨のひと粒に意識を向ける。  耳を澄まし、全神経を研ぎ澄ます。

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