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魂のよりどころ。(1)
今日も僕は紅 さんと一緒に山の奥深くにやって来ている。
紅さんの正体を知り、僕が妖狐になってからの日課は日中はこうして自然の中に囲まれ、妖力の使い方を習い――夜は……。
紅さんと過ごす夜のことを考えただけで、恥ずかしい。
……って、ダメダメ。
今はそのことを考える時間じゃない。
力に集中しなきゃ。
意識が紅さんに傾いてしまうから……。
「比良 ?」
ほら、僕が違うことを考えていたって、紅さんに気づかれた。
整った綺麗な顔は、眉間に深い皺を刻ませている。僕の体調が悪くなったんじゃないかと、気遣ってくれている。
「あ、ごめんなさい。大丈夫です。もう一度」
僕はふたたび目を閉ざし、空間と一体になるよう、深呼吸する。
そうすると、木々がざわめいて、空気が、僕の身体を中心にしてまわりはじめる。
どこからともなく生まれた風が、僕の頬を優しく撫ぜる。
腰まである長すぎる僕の髪がひと房、風に巻き取られ、なびく。
紅さんが言うには、これは妖精さんが僕と遊びたがっているっていうシルシなんだって。
僕は両手を広げて、風を受け入れた。
「比良、わかるかい? 太陽の粒子が、君に向けて降り注いでいるのが……」
太陽……。
僕が創り出した静寂という世界で、紅さんの声が響く。
ふと、上から降り注ぐ太陽の光を感じてみると、とても小さな光の粒が僕に触れているのがわかった。
目を閉じているのに、オーロラのような輝きを放つ小さな光の粒子を見ることができる。
あたたかい。
虹色に輝く、小さな粒たちに包まれる僕の身体がまるで発光しているみたいだ。
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