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僕の知らない紅さん。(1)

 突然何かが割れるような音が空間に鳴り響いた。 「……っつ!!」  何事かと飛び起きようとしたのに、腰が異様に重い。  なかなか起き上がることができなかった。  風邪でもないのに、どうしてすぐ起き上がれないんだろう?  身体がすごく怠い。 「あ、すまねぇ。起こした!!」  ベッドの上で蹲る僕の前に現れたのは、つり目の綺麗な男の子だった。  漆黒の髪の毛は肩まで流れていて、中性的だ。  年齢は僕より四つほど上だろうか。 「だから言わんこっちゃない。お前は慌てすぎだ、(あや)」  次に部屋に入ってきたのは、長身でスラリとした、モデルさんみたいな男の人。  切れ長の目に鼻筋が通っていて、まるで外国人みたいな、とてもカッコいい。  気怠そうに髪をかきあげる姿がすごく様になっていて、同性なのにドキッとしてしまう。 「もう、アカ兄はうるさいなぁ」  目の前にいる男の子は頬を膨らませ、拗ねている。  とてもかわいい仕草に、思わずクスリと笑ってしまった。 「あ、笑った。そっちの顔のがずっと綺麗だぜ?」 「えっ?」 『そっち』  その言葉はまるで、僕の、他の表情を知っているようだ。  この人たちと会ったことあったっけ?  僕が首を傾げると、目の前にいる男の人は床に落とした湯のみをひょいと拾い上げ、何かを思い出したかのように説明をはじめた。 「俺は朱。クレ兄――じゃないな。(くれない)兄貴の弟だ。それで、俺の隣にいるこの人が、俺とクレ兄の兄貴で、名前は(あかつき)。前にホテルで会ったけど、あの時は顔合わせどころじゃなかったもんな」

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