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妖狐の本質。(1)
あたたかな午後の日差しに包まれた心地の好い僕の眠りは、滅多に鳴らない紅さんの家のチャイムで途絶えた。
この昼間にいったい誰だろう?
そう思いながら目を擦る。
するともう一度、チャイムが鳴った。
鳴り止まないチャイム音ははまるで家の中に誰かがいることを知っているようだ。
むくりとベッドから起き上がれば、鈍い痛みが襲ってきた。
この痛みは何?
焦った僕は昨夜のことを思い出す。
あ、そうだった。
僕、夜通し紅 さんに抱かれ続けていたんだっけ……。
やけに身体がスースーすると思って見下ろせば、色素の薄い貧弱な身体に紅さんのキスマークが散っている。
「――っつ」
恥ずかしい!
そう思っている間にも、またチャイムが鳴る。
今の僕に赤面してる暇はない。
僕は隣の部屋から、紅さんのご兄弟さんや幸 さんから貰ったお洋服を引っ張り出して急いで身につけた。
「うっ……。はーい、ちょっと待ってください」
2階からじゃ僕の声は聞こえないと分かっていてもチャイムを鳴らし続けている相手に返事をして、階段下にある玄関へと急いだ。
「出るのが遅くなってごめんなさい!!」
謝りながら勢いよく玄関のドアを開けるとそこには……。
「やあ、比良 くん」
僕よりも頭2個分はある、背の高い男性がそこに立っていた。
黒髪の中に少しだけ混ざった白い髪。眼鏡越しに優しく微笑む男性は、昔僕がとてもお世話になった人――倉橋 さんだ。
「え? あ……くらはしさん……」
「覚えていてくれて嬉しいな」
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