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妖狐の本質。(2)
「そんな……忘れるだなんて……」
そうだよ、忘れるなんてできっこない。
だって、だって倉橋さんは、父と紅さん以外に僕の存在を唯一認めてくれた、とても優しい人だ。
この人のおかげで、僕は自分を見失わずにいられたと言っても過言じゃない。
それくらい、僕の中で倉橋さんは大きな存在の人なんだ。忘れるなんて、いったい誰ができるだろう。
……懐かしい。
目頭が熱くなり、涙が込み上げてくる。
鼻の奥がツンとして言葉にできなかったから、頭をブンブン振って、忘れていないと表現した。
「比良くんは変わらないね。――いや、変わったかな? 表情がとても穏やかになった。それに……ご飯も食べられるようになったのかな? 顔色も良いし、健康的になったね」
たくさん褒められて嬉しくて、笑うと倉橋さんの表情は、少しずつ曇っていく……。
「――?」
いったい、どうしたんだろう。
僕は笑うのをやめて、倉橋さんを見つめ返す。
「君は……それでいいのかい?」
倉橋さんが告げた言葉。それがいったい何を示すのか、僕には分かった。
倉橋さんはきっと、僕が何になったのかを理解したんだと思う。
――そう。
人間じゃなくなって、妖狐になったということを彼は、察知したんだ。
――倉橋さんの霊能力は並外れたもので、他の霊媒師さんたちから一目置かれている。
だからこそ、父は倉橋さんならこの僕の体質をなんとかできるんじゃないかって、そう思ったんだ。
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