223 / 253
魂のよりどころ。(3)
そうやって自分を奮い立たせても、口の中はカラカラに乾いている。
「比良……比良、大丈夫……大丈夫だよ」
縮こまった僕の肩を、紅さんがそっと優しく包んでくれた。
「わたしたちは運命共同体だ。愛おしい我が花嫁……」
紅さんの手が、恐怖で:俯(うつむ)いてしまう僕の顎を掬い取ると、口が塞がれた。
恐怖で凍えてしまった僕の身体が繋がった唇から伝わってくるあたたかな温度によってふたたび熱を持ちはじめる。
「君はひとりではない。ここには様々な者たちがいる。――それに、姿は見えなくとも、わたしも傍にいる。いいね? 忘れないで」
――うん、そうだね。そうだった。
ここには、光り輝く太陽や、緑たち。風や妖精たちがいる。
それに何より、紅さんだっている。
たとえ姿は見えなくても、僕はひとりじゃない。
「はい」
僕は目を閉じて、身体中に霊気を溜め込む。
すると、紅さんから与えてもらった僕の妖力が、少しずつ身体をなぞるように包みはじめる。
それと同じくらいに、紅さんが張った結界はガラスが割れるような音を立て、崩れ落ちた。
そして、紅さんの気配が消える……。
紅さんの気配が消えたのは僕が紅さんを頼ってしまわないようにするためだ。僕が妖狐の力をコントロールするっていう目的が果たせないから。
それに――結界が崩れ去れば、必然的に霊体たちは僕を狙う。だけど紅さんがいると、霊体たちは怯えて出て来ない。
ともだちにシェアしよう!