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魂のよりどころ。(5)
彼らはあらゆる方法でわたしたちを惑わし、堕 とそうとしてくるからね。
紅さんは、常にそう言っていた。
だけど僕は今――紅さんのその言葉を忘れてしまっていたんだ。
しまった!
そう思っても、もう遅い。
穏やかだった周囲の空気ががらりと変化し、豊かな緑に囲まれた景色は、漆黒に包まれた。
女の子の術中に、ハマってしまったんだ。
僕は肉体を持ったまま、パラレルワールドに入った。
なんでも力がある者は魂との密度が上がるらしく、異次元に移動する術を持っているらしい。
『比良……憎い、比良』
その声は、掠 れていて、とても聞き取りにくいものだった。
声の主は、深い闇からゆっくりと、こちらへ向かって歩いてくる。
足を引きずって歩く、この足音は、健康的な人間のものではない。
やがて、暗闇からこちらへやって来た人物は、ある程度の距離を保ち、僕と向かい合った。
その人物を見た瞬間、僕は目を閉ざした。
ああ、やっぱり……この人は……。
絶望と苦い思いが、胸の中に充満しはじめる。
『あなたのおとうさんだよ?』
僕の言葉を、女の子が代弁した。
『比良、憎い憎い、比良……よくも、殺してくれたな!!』
言った直後、父さんは恐ろしい速さで近づくと、僕の身体にのしかかった。
「っぐ!!」
父さんに押し倒され、首を絞められる。
……苦しい。苦しいよ……。
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