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魂のよりどころ。(10)
どうか、どうか僕に応えて……。
僕は渾身の力を込めて、身体中に張り巡らせている妖力を放出する。さらに上昇させた。
僕の妖力は、今も尚、振り続ける雨に混ざり合い、地上へと注ぎ込まれる。
だけど、まだ足りない。
この炎をかき消すには、もっと強い雨がいる。
もっと……もっと……。
もっと、力強く。
だけど優しく……。
すべての汚れを落とすことができる、とても優しくてすごく力強い雨を……。
僕は目を閉ざし、さらに妖力を空へと上昇させ、一身に念じた。
ジリジリと僕の身体を蝕む炎は、まるで僕の意志を阻止するかのように、勢いを増す。
炎に包まれた身体のすべてが、痛い。
魂が崩れ落ちていくような、そんな感じがする。
気を抜けば、意識が遠のいてしまう。
「比良!!」
紅さんの悲しそうな叫び声が、あまりの苦しさで意識を飛ばしそうになる僕を呼び覚ましてくれる。
僕は、あの人のところへ帰るんだ。
そしてこの子をお母さんとお父さんのところへ還すんだ。
……まだ、大丈夫。
まだやれるっ!!
これだけは負けられない。
譲れないんだ!!
お願い、僕の力……もっと強く……もっと……。
お腹の底に溜め込んだ妖力を、ゆっくり頭へと移動させ、空高くまで昇らせた。
僕と空を繋げ、一筋の梯子が架かる。
僕の妖力は、雷雲を呼んだ。
天井ではゴロゴロと鳴り響く音と一緒に、真っ黒な雨雲が、山を囲みはじめる。
そして……。
僕が放った妖力の雨は、他に何も写し出せないくらいにすべてをかき消していった。
僕は、黒い炎に包まれた女の子を抱きしめたまま……。
意識を、手放した。
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