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夢、現。(4)

 紅さんの背中に巻きつけた腕を緩めて周りを見る。  クリーム色の壁があるばかりだ。  ここは僕が見知った場所――紅さんの家。  でも、あの女の子の姿が見えない。 「紅さん、あの女の子は!? もしかして救えなかったの?」  消滅してしまったの?  僕の力じゃ、彼女を助けてあげることができなかった?  僕は……妖狐の力を与えてもらっても、何もできない、無力な奴だった?  僕は勢いよく紅さんのシャツを掴んだ。 「どうなの? ねぇ、ぼく、あの娘を助けられなかったの?」  やるせなさが涙になって、ぽたり、ぽたりと毛布の上に落ちていく……。 「比良……君っていう人は……」  紅さんは、ひとつため息をつくと、また話しはじめる。 「助けられたよ。彼女は、彼女の魂を待つ家族と共に天界に還って逝ったよ。比良、君が助けたんだ」  無力感に(さいな)まれる僕を慰めるため、背中をそっと撫でながら、紅さんはそう言った。 「それは本当?」  本当に、ご両親の御霊(みたま)の元に還せることができた?  ひょっとして、僕を落ち着かせるために言った嘘なんじゃないかな。  尋ねると、紅さんは躊躇(ためら)いもなく、;頷(うなず)いた。 「ああ、ほんとう」  そっか……。 「良かった……」  詰めていた息をそっと吐き出し、ひと安心する僕。  そんな僕とは対照的に、紅さんはなぜか唸るような低い声を出した。 「ちっとも良くはないよ、比良」 「へ? うわわっ」  紅さんは小さく首を振ると、また僕の身体がベッドに沈み込んだ。

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