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夢、現。(5)
「紅さん?」
顔、近いですっ!
それにそれに、紅さんの目、普段の赤茶色じゃなくて、真紅の目になっている。
この目は妖狐の姿になった時と同じ目だ。
まるで瞳の奥で燃えているような、炎の色……。
……なんか。
少し怖い。
恐怖とかいう意味じゃなくって、なんだかとても魅力的で、綺麗すぎるから余計に怖く思えるんだ。
獲物を狙うような……そんな感じかな。
「君は悪い人だね。そんなにわたしを困らせて、何が良いというのだろうか」
――えっ?
紅さんを困らせる?
「あの……」
困らせたつもりはない。
僕はただ、あの子を助けたかっただけだ。
紅さんはいったい、何を言っているのだろう。
パチパチと瞬きすれば、紅さんは大げさなため息をついて口をひらいた。
「比良が炎の中へと突き進んだあの時、わたしは君を失うと思ったよ。わたしの花嫁は比良以外、他には考えられないのに――。君を失った後、わたしはどう過ごせば良い?」
――あ。
紅さんに気持ちを打ち明けられてはじめて、僕は彼の気持ちを理解した。
今さらだって思う。
でも、僕のことで誰かが心配するなんて、今までなら父だけだったから、僕がいなくなった後のことなんて、少しも考えていなかった。
逆に、僕が紅さんの立場だったらいったいどうしただろう。
紅さんが女の子を助けるために、魂さえも燃え尽くしてしまうほどの炎の中に飛び込んだとしたら……?
紅さんの意識が戻らなくって、目覚めてくれるのを願うことしかできなかったら……?
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