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僕の知らない紅さん。(5)

「喉は痛まない? 昨夜から今朝にかけて君を夜通しベッドの上に組み敷いて鳴かせてしまったからね。嗄れた声も色気があってたまらないくらい美しいけれど……やはり健全な喉の方がいいからね」 「っぶ……ふッ!」  それは、とても穏やかな声。  だけど内容はあまりにも過激だ。  おかげで僕は口の中に含んだ生姜湯を、勢いよく吹き出してしまった。  紅さんに抱かれた時の光景が、ありありと脳裏に浮かぶ。  ……恥ずかしい……。 「ああ、大丈夫? 慌てなくとも、生姜湯は逃げないからね」  紅さんは、間近にあったティッシュボックスに手を伸ばし、口まわりについた生姜湯を拭い取ってくれる。  ……でも、僕は今、それどころじゃない。  だって、生姜湯を急いで飲もうとしたんじゃない。  紅さんがおかしなことを言うから、吹き出したんだ!!  紅さんはそれを知っていて、そんなことを言ったの?  それとも自覚なしなの!?  顔は生姜湯が入った湯のみに固定したまま、目だけをつり上げて、紅さんの様子を窺う。  すると、ふんわりと微笑む紅さんがいた。 「比良、もしかして誘っている? 君はわたしにいったいどうしてほしいのかな? そんなに頬を赤く染めて……上目遣いでわたしを見つめてくるなんて……また、抱いてほしいの?」  紅さんの指が僕の顎を捉えると、顔が湯のみから引き剥がされる。 「っふあっ!?」  上目遣い?  睨んでいるだけなのに!?  それにそれに、誘うってなに!?  どうしてそうなるの?

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