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妖狐の本質。(5)
どうして倉橋さんを敵視しないのって紅さんに訊 いたら、「比良がお世話になった人なんでしょう? だったら、わたしにとっても大切な人だよね」って、そう言ってくれた。
紅さんは本当に僕のことを想ってくれているんだ。
でも……でもね。
『妖狐というものは、人間を騙すという行為を、今まで幾度となく繰り返してきた』
別れる直前、倉橋さんが告げた最後の言葉が引っかかっていた。
紅さんにかぎっては大丈夫。
そう自分に言い聞かせるのに、それでも頭から離れてくれない。
僕の不安な気持ちは消えてくれない。
その気持ちに拍車をかけるようにして、紅さんは今夜からお仕事に復帰してしまうらしい。
紅さんがお店に出ることにしたのは、僕が妖狐としての力を使いこなせるようになったからっていうのと、お仕事先の常連さんが顔が出さないことを心配しているんだって。
――とはいえ、やっぱり僕をひとりにするのは不安らしくて、今日は紅さんがお仕事から帰って来るまでの間、暁さんと朱さんが僕の傍にいてくれる。
僕はお言葉に甘えて、紅さんのご兄弟さんと夜を過ごすことにした。
だけど……やっぱり、あんなに一緒にいた紅さんと少し離れてしまうと不安になってしまう。だから紅さんがお仕事に行った後、僕の表情が曇っちゃったんだ。
心、ここにあらずっていう感じ……。
そんな僕なのに、暁さんも朱さんも、ふたりともとても親切に接してくれる。
ご飯を作る時も手伝ってくれたり、要らない食器を片付けてくれたり、一緒にテレビを見たり……。
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