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第9話.背中の傷

「交通事故の話は先程大野さんからあったかと思いますが、静くんの背中にはその時の傷が残ったままです。それと彼は人と触れ合うことと、自分よりも体格の良い人に恐怖を感じます。お風呂に集団で入ることも無理でしょう」 お風呂は解放されている時間内であれば、いつでも誰でも入れるようになっていた。 裏を返せば、中で誰に会うか分からない、ということだ。 「風呂だったら、俺の所で入るか? 教員の部屋にだけ、バスタブ付きの風呂があるから」 提案したのは鈴成だった。 「生徒の部屋にはシャワーしかないからなぁ。あ、俺はいつも大体大浴場で入るし、遠慮は要らないぞ?」 そう言う鈴成に明も拓海も賛成し、良い考えだなぁなんて言っていた。 そこにため息混じりに意見を述べるのは寮長である貴也だった。 「盛り上がっている所申し訳ありませんが、ちょっと宜しいですか?」 ピリピリッとした物言いに全員が貴也に注目する。 「地迫先生、あ、弟さんの方ですが、あなた自分が生徒からかなり好かれている事、分かってますよね?」 「まぁ、それなりに? でも、それとこれとは……あっ」 鈴成にも貴也の言いたい事が分かったようだ。 「大体、毎日誰からか告白されている先生の部屋に出入りするなんて誤解を招き、イジメの原因にしかなりませんよ。僕は反対です」 そう貴也は言うと、静のことを見る。 「で、渦中の本島くんはどう思ってるの?」 「へや……シャワー…で…平気………です…」 本当はこの話が出た時から、静はそう言いたかったのだが、会話に入るタイミングが分からず、言えずにいたのだ。 「んー。問題になってる背中の傷って結構大きいの?」 貴也は静に質問をぶつけた。 「見ますか……?」 本来なら人前で服を脱ぐ事はしないのだが、貴也の雰囲気が柔らかく、部屋には明も拓海もいるのだから大丈夫だと、静は長袖のシャツのボタンを外していく。 上半身裸になるとみんなの方に背中を向けた。 見慣れている明と拓海以外の全員がその傷を見て息をのむ。 「痛そう」 泣きそうな声で誠が呟く。 「手術で傷を消そうって話も出たんだけどな、静がこのままにするって言ったから。もういいね」 明が静に脱いだばかりのシャツを着せる。 鈴成は事故の後静が目を覚ましたことも奇跡だったと明が言っていた事を思い出していた。 あんなにひどい怪我をして、車椅子で生活した事もあって。 それでも今は自分の足で立ち、歩き、勉強する為に高校にも入学した。 あの小さな身体にどれ程の強い信念があるのだろうか。 情熱的な目で見られることに慣れてしまったからだろうか、先程自分が挨拶をした時に全く興味がないと視線を外した静のことが、鈴成は気になって仕方がなかった。

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