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第14話.憧れの人②
『そこで何をしているんですか?』
凛とした声が誠の耳に届く。
誠を含めた全員が声がした方に振り返った。
そこには同じ制服だとは思えない程、キリリと着こなした優しい顔立ちの男性が立っていた。
『げっ?! 佐山 かよ』
『校外で、しかも制服を着た状態で問題を起こした場合、どうなるかはあなた方の方が知っているのでは? 最悪退学ですよ?』
その言葉に一瞬ひるむが、1人が言い返す。
『後輩の分際でうるせぇな、俺達が何っ、むぐっ』
険しい顔に変わっていくのを見てヤバイと思った他の面々が後ろからそいつの口を手で塞いだ。
『悪かったよ。このまま戻るから見なかったことにしてくれるか?』
『仕方ないですね。また見かけた時には容赦しませんので、そのつもりで』
その言葉にコクコクと頷くと3人はその場からいなくなった。
遠くからゴツンという音と『次期生徒会長に楯突くなよ、バカ!』と聞こえたが、誠は目の前にいる自分を助けてくれた人に釘付けだった。
『怖かったよね? 大丈夫?』
『はいっ! ありがとうございます、さやまさん?』
確かそう呼んでいたと、名前を言ってみる。でも合っているか不安で疑問形になってしまった。
『名乗るほどでもないよ。とにかく無事で良かった。すごい荷物だね。持とうか?』
そう言われるまで誠は自分が買い物の帰りであることを忘れていた。
『いえ、本当にすぐそこが家なので大丈夫です』
少し怖かったこともあって強張っていた表情筋も解れ、誠はニコッと笑った。
その笑顔につられるようにその男性も微笑んだ。
『そっか。じゃあ、僕は行くけど気をつけてね』
『はい、本当にありがとうございました』
誠は深々とお辞儀をすると、重たい荷物を持って家に帰ったのだった。
その後、誠は制服からあの人が聖凛高等学校の生徒であると知り、そこの受験を決めていた敦に山を張ってもらった。ギリギリでも合格をもぎ取った誠は、あの人が自分を覚えていなくても、告白したいと考えていた。
敦にその事を話したら、相手が男である、という事には触れなかったが、名前も知らないし助けられた事で美化してると、反対されてしまった。
それでも優しく微笑んだ顔が忘れられないのだ。
夢の中では自分の名前も呼んでくれる。
現実でも自分の名前を呼んでもらえないだろうか、と誠は壇上のその人を見つめた。
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