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第15話.入学式③

誠の気持ちとは関係なく、入学式が始まった。 理事長の挨拶から担任の先生、新任の先生、寮長の紹介と進んでいく。 新任の先生の紹介で拓海が紹介された時は上級生からどよめきが起きた。 確かにイケメン先生で人気の地迫鈴成の兄で美人なのだから、驚くのも無理はない。 養護教諭なので、保健室は関係のないひとたちでいっぱいになりそうだ。 そして、生徒会長からの言葉。 「生徒会長の佐山雪人(ゆきひと)です。皆さん、聖凛高等学校に入学おめでとうございます。全寮制ということもあり、集団での生活の中でお互いの協調性など、これから社会に出ていく為のスキルを身に付けていって欲しいと思っています。 また、勉強面で分からないことなどがあった時には同室の生徒、または同じ寮の先輩に聞くなど、お互いに協力するようにして下さい」 誠は壇上から聞こえる、あの時と同じ凛とした声に聞き惚れていた。 だから静が驚いたように顔を上げ、雪人のことを見ていた事に気が付かなかった。 その後、新入生代表の挨拶があり、入学式は終わった。 みんなで連れ立って教室に入ると、席は決まっているらしく、名前が書かれた紙が机に貼ってあった。 静が手前から1つ1つ見ていると教室の奥から誠の大きな声がした。 「静も敦もこっちにあった」 その言葉に、そちらに向かうと、静は窓側の1番後ろの席で、隣が敦、前が誠の席だった。 全く話したこともない人で周りを固められていなくて、静はホッと小さく息を吐いた。 「本島くん、よろしくね」 敦はニコッと笑うと席に着いた。 「静で……大丈夫………」 自分の席に着く前に敦の席の前で立ち止まると、静は頑張って声を出した。 席の場所で一喜一憂する他の生徒の声でかき消されそうになりながらも、その声は敦に届いた。 「え? いいの? じゃあ、オレのことは敦って呼んでね、静。ってか初めて聞いたけど、可愛い声なのな」 静は自分の掠れて今にも消えそうな自分の声が嫌いだった。 それを『可愛い声』と言われ、全否定したくなる。 静はフルフルと首を横に振ると自分の机を見つめるように俯いた。 「あ、敦、ダメダメ。静はね、可愛いとか言われたくないんだって」 誠の言葉に敦はさっき静が『表情が変わらないから不気味だと言われてる』と紙に書いていたことを思い出した。 いつまでも自分の話題をされていては俯いた顔を上げなさそうだと思った敦は、誠の話題へと変えた。 「静の話は一旦置いておいて、誠、やっぱり生徒会長だったの?」 『生徒会長』の言葉に静も顔を上げる。 「うん。あの人だった」 誠は先程のことを思い出すように目を閉じる。 静は事態が分からず、誠には聞かれないようにと紙を敦に見せる。 『誠と生徒会長って何かあるの?』 敦はその紙に少しクセのある字でサラサラと書く。 『半年前位に、からまれたところを助けられたらしい。あこがれのヒーローなんだって。告白するとか、この前まで言ってた』 未だ目を閉じ、脳裏に焼き付けた生徒会長のことを思い出していた誠は、他人に殆ど興味を持たない静が『生徒会長』という言葉に過剰反応を示していたことに気が付かなかった。

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