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第16話.拓海の一大事①
静が誠に話しかけようとしたのと同時に鈴成が教室に入って来た。
「おはよう。今日は天気もいいし、特に何も問題無く入学式が終わって良かった」
A組には自分が担当している第1寮の生徒しかいなかったので、鈴成は特に自己紹介をする必要もなく普通の挨拶をした。
「先生、この学校には地迫先生が2人になってしまったのですが、どう呼び分ければいいですか?」
敦がそんな質問を鈴成にぶつける。
言われてみればそんな疑問を持つことが普通なのだが、静は拓海のことを元々『拓海さん』と呼んでいたので呼び分ける必要もないと思っていた。
「好きなように呼んでいいよ」
「じゃあ、僕は鈴先生 って呼びます」
誠が元気にそう言うと、それいいかも、と殆どの生徒が賛成しA組はそう呼ぼうなんて、静には無理そうな呼び名に決定してしまった。
「俺のことじゃなくて、他に質問が無ければ今日はこれで解散になる。明日明後日は土日で授業もないので、また月曜日に」
どうせ寮で会うけどな、と鈴成は苦笑いをすると質問が無いことを確認すると教室を後にした。
静は誠と生徒会長のことについて話をしたいと思っていたが、誠と敦の話が一向に終わる気配がなく、2人の話をずっと聞いていた。
いつの間にか教室に残っているのは3人だけになっていたが、静にも今の状況が落ち着く良い時間で席に座っていた。
そんな中、急に教室のドアが開く音がして2人は話すのをやめた。
3人が開いたドアを見ると、そこには青ざめた鈴成が立っていた。
「良かった。まだいて。本島くん、一緒に理事長室まで来てくれないか? 兄貴が」
鈴成がどんどんと近付きながら静に話かける。
静はサラサラと紙に書くと鈴成にそれを渡した。
『拓海さん、というと明さんと一緒に住んでいることが問題にでもなりましたか? 詳しいことは歩きながら聞きます』
それを読んだ鈴成は驚いて目を丸くした。
一瞬動きが止まった鈴成だったが、早く拓海の所に行かなくては、と静の手首の辺りを掴むとそのまま歩き出した。
「こっちだ」
いつもだったら不快感でその手をすぐさま払うのに、静はそうしなかった。
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