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第17話.拓海の一大事②
腕を掴んだ瞬間、誠は静が鈴成の手を振り払うと思ったが、そうせずにそのままの状態で教室を出て行ったことに驚いて足が動かなかった。
そして当の本人である静も触られる事に不快感を全く感じず、その事が信じられなくてその手と鈴成を交互に見る。
自分より小さい人であっても、人から触られることは昔から苦手だった。
心を許している数少ない人は大丈夫だったが、車椅子の時の事件後は『自分より大きい人でスーツを着ている』と確実にダメだった。
今、自分の手首を持っている人は自分よりも大きくてスーツを着ているというのに、一体どういうことなんだ?
と、静は混乱していた。
「本島くんは凄いな。さっきの、ほぼ当たってる」
その声に我に返ると、静は自分のことよりもまずは拓海のことだと気持ちを切り換える。
「……簡単…拓海さん……新任…だから……素行…調査…」
鈴成の歩く速度が早く、静の息があがる。
静が苦しそうに声を出している事に気が付き、鈴成は歩く速度を緩め掴んでいた手を離した。
「ごめん、歩くの早かったよな。それに手首、痛くなってないか?」
静はフルフルと首を横に振ると、掴まれていた手首に寒さと寂しさを感じていた。
体温の低い静には鈴成の温かい手が熱く感じていたのだ。
「たいした分析力だ。理事長が問題にしてるのは、明さんがこの学校の生徒の保護者であるって事なんだ」
鈴成がそこまで言うと、静はもう言わなくても大丈夫と手のひらを鈴成に向けて手を伸ばした。
「大丈夫……うまく…やる…から……」
理事長室に着くと、ノックをして鈴成に続けて静も部屋に入った。
「君が本島くんだね? 入学式が終わったばかりでこんな所に呼んで悪かったね。それで、そこにいる人の事を知っているかな?」
理事長の言葉は字面では優しいが、声色にトゲを含んだ嫌な感じだった。
しかし、静は何を心で思おうと表情は微塵 も変化がないので、こう言う時にはそれも役に立っていた。
静はコクリと頷くと、こんな理事長など言い負かしてくれると戦闘態勢に入った。
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