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第18話.理事長との戦い
✳︎ 理事長との対決では、静が普通に喋ると読みにくいので、“…”なしで喋ることとします。
✳︎“…”なしは《》で表記します。
「…拓海…先生……は…僕を……助けて…くれた……先生…です……」
静の喋り方に眉をひそめると、理事長はこう言った。
「君はまともに話も出来ないのかね?」
そんな理事長の言葉に何か言おうと拓海が静を見ると、静は拓海にしかわからないくらい小さく首を振った。
拓海はこの場を全て賢い静に任せる事にした。
「すみま…せん……事故の…後遺症……で…声が……うまく……出せない……もので……」
絞り出すように頑張って喋る静に理事長はバツを悪そうに1つ息を吐いた。
「君は、君の保護者である大野さんと、そこにいる地迫先生が一緒に住んでいることは知っているのかね?」
「知って…います……伯父さん……から…そう……言われ…ました…」
理事長は『ふむ』とそれに返すと1番聞きたかった事を言った。
「2人の関係を知っていれば言って欲しい」
恋人同士である、と言わせたいことは初めから分かっていた。では、そうではない、ということを信じさせればいいのだ。
《伯父さんと拓海先生は昔からの知り合いです》
「昔というと、どの位?」
実はあの2人はまだ子供の頃に、2人の祖父が仕事関係で知り合いだった為、何度か会っていたと、この前聞いたばかりだった。
《確か、28年前だったと聞いています》
まさかの展開だったのだろう。理事長は何?! という顔をした。
《当時2人のお祖父様同士が知り合いとかで、地迫家の事業に大野家が援助をしていたようです》
この話は本当の事なので調べられても問題ない。
地迫家もそれなりに大きな家だったが、大野家は財閥と言っても過言ではない程大きな家だった。
理事長が口を挟んでこないので、静はどんどん続ける。
《それ以来家族ぐるみの付き合いがあるようで、伯父さんは拓海先生にとって、色んなことを相談できるお兄さんのような存在だと聞いています》
静の言葉に理事長は拓海を見た。
「本島くんのいう通りです」
拓海はそう言うと静を見た。
《今回、この学校に赴任する事が決まった事を拓海先生が伯父さんに話したら、二世帯になっている片方を使う事を提案したそうです》
昔は誰かに貸すことも考えていたようだが、今では将来静が住めるようにと明は考えていた。
二世帯と言っても中で繋がっているので行き来は普通にできるようになっている。
《家賃も貰っていると聞いています。これのどこが問題なのでしょうか?》
理事長の話し方から察するに、権力に弱い人だと静は思っていた。
明があの大野家の人間である事が分かれば、おそらく手の平を返すだろうと考えたのだ。
《あの大野家の、反感を買うことは理事長の今後を考えても良くないと思いますよ》
“大野家”を強調する様に言うと、理事長の血の気が引いていくのがわかる。
《弟として可愛がっている兄弟を悲しませるなんて、明日にはそこに座っていられなくなるかもしれませんね》
静の表情筋が動くのなら、きっとニッコリと笑っていたことだろう。
「こ、この事に関しては、今後も一切不問とする」
理事長の言葉に静は完全勝利を宣言したくなった。
《今回のことは伯父さんには伝えません。でも、いつその気が変わるか分かりませんので、お気を付けください》
もちろん明に伝えるが、何かあっても操縦しやすい今の理事長のままにして欲しいと言う予定だった。
「……分かった」
悔しそうに唇を噛む理事長を残し、静と地迫兄弟は理事長室を出た。
「あ、ようやく出てきたぁ。大丈夫だった?」
理事長室の前には心配そうな顔をした誠と敦が待っていた。
これだけたくさん声を出したのは事故以来初めてだし、ある程度の緊張もしていた為、静は理事長室を出るとその場にへなへなと、座り込んだ。
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