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第19話.戦いの後
急に座り込んだ静をみんなが心配するが、そう易々と触れる訳ではない。
「大丈夫か? 立てそうも無かったら運ぶぞ?」
そんな中鈴成が静の前にしゃがんで話しかける。
「……大丈夫………」
そう言ってはみたものの、静の身体は自分の言うことを聞かず、立てそうも無かった。
「…じゃないな。暴れるなよ」
鈴成はそう言うと、静をお姫様抱っこした。
その運び方に異論を唱えたかったが、もう口を動かす事が嫌だった。
「やっぱり、鈴先生は静に触っても大丈夫なんですね! さっき教室に来た時も静の手首を掴んでたのに振り払われなかったから驚いたんですよ」
「え? 大丈夫みたいだな」
誠の言葉に、静は今も不快感を全く感じていないことを実感した。
なんで、この人だけは初めから大丈夫なんだろう? 静は全く答えがわからず、拓海を見た。
拓海は静が嫌がることなくまだ会ったばかりの人に触られている、というこの状況が信じられなかった。
静と目が合うと拓海は近づいた。
「静くんさっきはありがとう。疲れたでしょ? 少し保健室で休んで行こう」
静が今の自分の状況に戸惑っていることが拓海には分かったが、その事をこの場で言う訳にもいかず、まずは静を休ませることにした。
「保健室に連れて行けばいいんだな? 寝てもいいぞ」
こんな恰好をしながら喋られると、静の頭の中に鈴成の声が響く。
少し低めの声、それも全く嫌な感じがしない。それどころか心地いいとさえ感じる。
訳がわからない自分の状況に静は一旦考えるのをやめて、目を閉じた。
すぐにやってきた睡魔に身を任せ意識を手放した。
無意識だろう。静は鈴成の胸の辺りにスリッと顔を寄せる。
誰も気が付いていない。鈴成だけがそんな静の小さな動きに気付き微笑んでいた。
保健室に着くと静をベッドに寝かせ、拓海、鈴成、誠、敦の4人は少し大きめの机に向かい合わせになるようにして座った。
「鈴、静くんに触った時嫌がったり震えたりしなかった?」
「んー。無かったと思う」
拓海の言葉に、鈴成は教室で手首を掴んだ時のことを思い出す。
「静って触られるのとかダメなんですか? まだちょっと話しただけなんでよく知らないんですが。まぁ、人と関わること自体、苦手そうだったけど」
敦は今まで寮の食事の時も、人と目を合わせることすら避けるようにずっと下を向いていた静のことを思い出す。
「えっと、君は…?」
拓海は見慣れない子がいるな、とは思っていたのだが誠と一緒にいるから、誠の友達だと思っていた。
それが、静と話をしていたということに、また驚く。
「オレは佐々木敦っていいます。誠とは同じ中学で、腐れ縁ってやつです。静とは今日初めて話しました。声を聞いたのは、一言だけですけど」
「今日は驚く事ばかりだな。僕は静くんの主治医でもあるんだ。事故の事は?」
静のことを話すにはそこは欠かせない。
「事故が原因で声がうまく出ないって筆談では聞きましたが、それですかね?」
「その時の事故で静くんは両親を1度に亡くしているんだ。その後も色々あって、人とは一定の距離を取っている、というか無意識に近づけないようにしているって僕は思っているんだけどね」
敦と話をしていて、拓海は静に良い友達がまた出来そうだと思っていた。
誠は裏表なくスルッと懐に入ってくるような子で、敦は持ち前のコミュニケーションスキルで、静の少しの変化も感じ取ってくれそうだった。
「静くんは人と触れ合うことに恐怖を感じるんだ。今でこそ僕は触れるようになったけど、初めは何度も『触るな』って言われたからね」
「え? 兄貴が?」
話を聞いていた鈴成が拓海の言葉に驚いた声を上げる。
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