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第20話.運命の相手?①
「だから静くんに無条件で触れる人が現れたら、それは運命の相手じゃないかって思っていたんだけど、それが鈴とはねぇ」
拓海はまさか静のことをまかせることになるかもしれない人物が自分の弟になるとは考えもしていなかった。
「何言ってんだよ。たまたまかもしれないだろ?」
「たまたまなんてあり得ない。静くんに限っては絶対に」
鈴成の言葉に間をあけずに拓海は反論する。
「明さんから、あ、明さんっていうのは静くんの伯父さんで事故の後一緒に暮らしている人なんだ」
拓海は事情を知らない敦にそう言うと、続けた。
「明さんから聞いたんだけど、静くんは車椅子の時に1度襲われかけたことがあるんだって。その時襲ってきた人がスーツを着ていたらしくって、スーツを着た人は本当にダメらしい。明さんでも手を払われたことがあるって言ってたし」
そこまで言うと拓海は鈴成を見た。
「え? 俺、スーツ着てるけど」
それが仕事着なので仕方がないのだが、そのスーツを着た人が静に触って大丈夫ということが、拓海は自分の目でも見ていたが未だに信じられなかった。
「だから驚いてるんだよ。本来なら触る前に投げ飛ばされるはずだしな」
「いやいや、いくらなんでも無理だろ?」
鈴成はあんな小さな静が自分の事を投げ飛ばせるはずがないと思った。
「静くんは護身術を習っているというか、師範の称号ももらってるらしいんだ。最終的には先生よりも強くなっちゃったらしい。シュミレーションで明さんも軽く投げ飛ばされたって言ってたから、鈴なんてひとたまりもないと思うよ」
投げ飛ばされた事をシュンとして自分に話してきた明のことを思い出して拓海は笑みを浮かべる。
「明さんが軽くっ? さっき本島くんのこと持ち上げた時かなり軽かったぞ? それなのに」
「護身術だと身体の大きさとか関係ないんだって。相手の勢いを利用するからそれが、そのまま返るらしい」
護身術を習い始めてから静は何度となく自分よりも大きい人を投げ飛ばしてきた。
見た目だけは可愛い静はナンパされやすかったのだ。
「つまり、静は触られるのはダメだけど、自分から触るのは問題ないってことですかね? たぶん触るのは一瞬でしょうが」
話を聞いていた敦が質問を挟む。
「そうだね。触られるのが大丈夫な人も、それがその人だってしっかり認識されていないとダメだし、逆も触るって覚悟を決めてるんだと思う」
敦が拓海の話を聞いてうんうんと頷くと鈴成を見た。
「鈴先生のことは認識しなくても大丈夫な感じなのかな? だとしたら、本当に運命だと思うけど」
敦はそう言うと鈴成に笑いかけてから、静が寝ているベッドの方に視線を移す。
「ちょっと実験してみるかい? 静くんは寝ていても大丈夫な人とダメな人の区別をつけられるんだ。僕の場合は、声をかければ大丈夫だから、佐々木くんと鈴でやってみようか」
「実は僕もこの前寝ている時に触ったら跳ね除けられちゃった」
誠はイタズラを見つかった子供のように苦笑する。
「そんな事したら起きないのか?」
鈴成の疑問ももっともである。
元々静の眠りは浅いが、そんなに何度も触ったりしなければ、起きる事はない。
「ここにいる全員が代わる代わる触ったら起きるだろうけど、2人なら大丈夫だよ」
拓海がそう言うのならと、全員でベッドまで移動する。
寝ている静は丸くなっていてまるで猫のようだった。
「まずは佐々木くんからね」
拓海が小さな声でそう言うと、敦は恐る恐る静の手に触ってみる。
と、その瞬間にその手を跳ね除けられてしまった。
起きているのではないかと思う程の勢いがあったが、静は寝たままである。
「じゃあ、鈴も」
本当は余り触りたくなかった。静のことを何とも思っていなくても、手を払われたらそれはそれで傷つく。
でもこの状況で触らない訳にもいかず、鈴成は先程敦が触った辺りに触ってみる。
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