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第24話.勉強②

「ムリムリムリムリ、無理でしょ」 『まだ、何もしてない』 「いや、でも誠がそんな成績を取れるという想像ができないな、オレでも」 確かに天才にしてくれとは言ったが、誠が大人しく勉強する姿も敦は想像出来なかった。 「それに、勉強が出来る人は出来ない人の気持ちが分からないって言うじゃん。だから今までだって敦にヤマを張ってもらって何とかしてきたの」 誠は自分が勉強が出来ないのは周りが今までちゃんと教えてくれなかったからだと思っていた。 結局先生にまで(さじ)を投げられ、誠は教わる相手がいなかったのだ。 『僕には分かるから大丈夫』 そんな静の言葉も信じられないと、誠は静を見つめる。 『事故の後、人とかの記憶は残ってたけど、読み書き以外の勉強については全て忘れてたんだ』 「え? それじゃあ初めから?」 静はコクンと頷くとペンを走らせる。 『明さんが0から教えてくれた。だから勉強出来ない人のことも分かる。どの辺でつまづくのかも』 静は誠と敦を見てから続けた。 『全くできない所からの方が成績も上がりやすいはず』 自分がその例だと静は思った。 勉強のことを忘れてると分かっても、そこまで必死に取り戻そうとした記憶がない。 ただ問題が解ける感覚が気持ちがよくて、勉強をする事が静にとっては1番楽しい事だったのだと思う。 「でもなぁ、静。厳しそうだしなぁ」 よほど勉強したくないのか誠は難しい顔をしてチラッと静を見る。 自分から勉強したいとは思わなさそうな誠に、静は1つ条件を出す事にした。 『誠は生徒会長と知り合いになりたい?』 「なりたい」 即答する誠に、静はペンを置くと自分の声で伝える事にした。 「…僕が……勉強を…教え…て、少し…でもっ…コホッ…」 早く伝えたいと思えば思うほど、声は掠れて喉も乾く。 静はいつも持ち歩いているペットボトルの水を一口飲むと、心配してくれる2人に“ごめん”と言って続けた。 「少し…でも……成…績が……上がった…ら……雪人に…紹介……する」 敦は【雪人】が誰なのがすぐに分からなかったが、誠は心の中で勝手に【雪人さん】と呼んでいたので、静の言葉に目を丸くする。 「え? 静は生徒会長と知り合いなの?」 静は1つ頷くと、またペンを持った。 『小学校に上がる前まで近くに住んでて、よく遊んでた』 その頃雪人は静のことを女の子だと思っていて、よく“大きくなったら僕のお嫁さんになってね”と言われていたことは内緒である。

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