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第26話.心境の変化

3人で勉強することになった。教えるのは入試で1位だった静である。 問題集と参考書を渡された誠と敦はその表紙を見つめる。 「静、僕はもう高校生だよ?」 小学生と大きく書かれているのを見て、誠が不満気に言う。 「基礎……大事……」 敦はちゃんと高校生用でホッとする。 「初め…は…敦も……一緒…に……こっち……」 ホッとしたのも束の間で、敦は誠の隣に座ることになった。 誠の前に置かれている問題集と参考書を見ると、敦は静に質問をした。 「随分、ボロボロなんだな。かなり使い込んでる?」 静は頷くと問題集と参考書を見る。 勉強を始めた時に使っていたもので、静は何かあると見直していた。 それは勉強の為だけではなく、つい最近も拓海に悲しそうな顔をさせてしまった時も眺めていた。 見ているだけで、自分を見つめ直すことができるのだ。 『明さんが用意してくれたもので、僕もそれを使って勉強したんだ。ある程度勉強が出来るようにならないと、学校にも戻れなかったから』 長い文章になりそうな時は、静はもっぱら筆談するようになっていた。 「大切なものなら、問題集だけでもコピーした方がいいよ。誠の落書きだらけになるから」 「落書きなんてっ……しちゃうかも」 誠は反論しかけて、自分の教科書が落書きだらけな事を思い出した。 「たしか談話室のコピー機は、勉強の為なら使って良かったはずだから」 そこまで言うと、誠の前に積み上がっている問題集を敦は見た。 結構な量である。全部コピーするのは大変そうだ。 『取り敢えず、何の教科から勉強するか決めよう』 「担任の鈴先生の教科がいいと思うな」 「誠が1番嫌いな数学からな。じゃあ、オレがコピーとってくるよ」 そうだった。鈴先生は数学だった。と誠が気がついても遅かった。 『2部コピーしてきて。文章題の見方から説明するから』 「了解」 敦が問題集をコピーしに部屋を出て行くと、誠は後悔と共に机に突っ伏した。 「勉強……嫌…?」 静の言葉に誠はガバッと起き上がると、首を横に振った。 「ちゃんとやるよ。そう決めたから。雪人さんと話せるなら何でもする」 誠の幸せそうな笑顔を見て、静は拓海に言われた事を思い出した。 『静くんにも人を好きになる幸せを知って欲しい』 あの時はそんな事は知らなくていいって言った。それは変わらないはずなのに、もし知ったら今の誠の様に自分も笑えるようになるのかな。なんて考えている事自体、静は自分の心境の変化に戸惑いを感じていた。

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