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✲第39話.救世主

✳︎無理矢理・暴力の描写を含みます 「嫌だ、助けてってウルサイな。黙れ」 そう言いながらも静の言葉は関係ないのだろう。 腰を進めようとする。 だが濡らしも慣らしもしていないそこに高校生のいきり勃ったモノが入る訳もない。 「嫌だ!」 「黙って力抜けよ」 またさっきと同じ所を手加減無しに叩かれる。 その拍子に力が抜け、めりめりと入って来ようとするのを防ごうと身をよじっても、何の抵抗にもならない。 もうダメだと思った時に浮かんだのは明さんでも拓海さんでもなく、鈴先生の顔だった。 心の中で名前を呼んで最後にもう一度だけ助けを呼ぶ。 鈴先生! その瞬間に先程閉じたドアが開かれた。 「本島!」 「助けて!」 2人の声が重なる。 「お前ら、ここで何してる!」 入って来るのは誠くらいだと思っていたからか、そこに鈴成が入って来て2人とも静から離れた。 「いや、その」 「その格好じゃ、反論の余地はなさそうだな。とりあえずどけ」 鈴成の注意が静に移ると2人は身なりを整えて逃げようとした。 「長谷、頼む」 「もう、捕らえましたから大丈夫です。談話室の椅子にでも縛り上げておきますね」 恐怖が続いているのか静は身体を隠すことも出来ずに鈴成を見た。 「先生? 静、大丈夫?」 ドアの外からの誠の声に静は小さく 「来ないで」 と言った。 今の自分の姿を見せたくないのだろう。 鈴成は静に掛け布団をかけるとドアの方を振り返った。 「しばらく誰も近づけないように。君達も今はそっとしてあげた方がいい」 「でも」 「兄貴に連絡するから大丈夫。兄貴が来るまでは俺がここにいるから」 そう言うと鈴成はスマホで拓海に連絡を取る。 今日はもう明の家に帰っていたので、来るまでには少し時間がかかるだろう。 「佐々木くん、安藤くんに談話室に行ってもらって、あいつらが第何寮の生徒か調べてもらってくれ。分かったら担当教諭を呼んで、生徒会長も呼んだ方がいいかな」 「分かりました。静のこと頼みますね」 「あぁ」 部屋には静と鈴成だけとなった。 鈴成が部屋を見回すとシャワーブースに続くドアが壊されていた。 バスタオルがそのドアとベッドの間の床に落ちている。 それだけでも何があったのか大体分かる。 鈴成が静の傍に行くと、先程よりは落ち着いた様子で見上げてきた。 「来てくれてありがとうございます」 「本島くん、声!」 「なんか、出るようになりました」 静の本当の声は少し高めで清らかだった。 「そっか。えっと、そのー、あいつらに……」 「お陰様で未遂です」 鈴成の言いたいことを汲んで静は答えた。 その言葉に鈴成は安堵の溜息をもらす。 「変なこと言ってもいいですか?」 「何?」 「今だけ静と呼んで、抱き締めて下さい」 鈴成は静を起き上がらせると掛け布団ごと抱き締めた。 「静」 鈴成に名前を呼ばれて鼓動が1つ跳ねる。 こんな感覚は初めてだった。 「怖かった」 「うん」 「でも諦めたくなかった」 「うん」 「誠に何もなくて良かった」 「うん」 静の呟きを鈴成はただ聞いていた。 それが静には嬉しかった。 「もう大丈夫です」 先程は痛々しくてよく見られなかったのだが、静の口の端からは血が滲み頰は赤く腫れていることに気がつく。 「すぐ戻る」 鈴成は洗面所に行くとタオルを水で濡らした。 備え付けの冷蔵庫の冷凍室にあった氷を挟んで戻った。 不安なのか静はずっと鈴成のことを目で追っていた。 「冷やした方がいい」 赤く腫れた部分にタオルを当てると、静は気持ちよさそうに目を閉じた。が、直ぐに目を開けると辺りを確認して小さく息を吐いた。 かろうじて最悪の事態はまぬがれたものの、心の傷は新たに出来てしまっただろう。 拓海が到着するまでの短い時間だけでも、俺が守らなければと思っていたはずだったのに、いつのまにか鈴成はこれからもずっと静の事を守りたいと思っていた。

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