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第47話.相談②

「ゆっくりでいいよ。待つのには慣れてるから」 しばらくして優しくそう言われた。 急に素直に言葉が出てくるようになる。 「潤一とは付き合ってるんです。好きだって言われたし、キスも、触れるだけですが、しました。でも、襲ってくれなくて、オレには魅力ないんですかね?」 付き合ってるって言ったけど、本当にそう言えるのかも怪しいと思い始めている。 「長谷くんは佐々木くんのことが大切だから手が出せないんじゃないかな」 「え?」 大切だから? 「あれだけ体格差があると壊しちゃいそうだって思ってると思うよ」 「オレだって男ですよ? そんな簡単に……」 「静くんが佐々木くんの相手で、今の長谷くんの位置に自分がいると考えてみて。体格差は殆どないけど」 そこで拓海先生は言葉を区切る。 目を閉じて想像してみる。 さっきのエプロンを着た静を組み敷いてみる。 フルフルと震えながら見上げる静。 「無理です! 壊しちゃいますよ」 「同じことが長谷くんの頭の中でも起こってると思って間違いないね」 「拓海先生」 「今は先生としてじゃないよ?」 ニコッと笑う拓海…さんがキレイだと思った。 「拓海さん、オレの事も敦でいいです」 「敦くんは長谷くんとそんなにしたいの?」 素直に頷くと少し前の自分の事も打ち明けた。 「オレ、中学の時に好きだって言われた人に半ば強引に抱かれたんです。でもその人が上手かったのかすごく気持ちよくなっちゃって、それからいろんな人とヤッたんですけど、1度も満足した事無いんです」 しばらく沈黙が続く。 もしかして呆れられたかな。 「ちゃんと相手はコンドーム付けてた?」 オレの体のこと心配してくれてた。 「うん。付けたく無いって人もいたけど、口で付けてあげたら喜んでた。初めての人も、ちゃんと付けてくれてました」 「そっか。で、その中に敦くんが好きな人はいた?」 首を横に振る。 「潤一が初恋だから」 「セックスすると気持ちいいとは思う。だけど本当に好きな相手としないと心にぽっかりと穴が開いたようになるんだよね。体と心は別なんだよ。多分、長谷くんとしたらどんなにぎこちなくても、そんなに気持ちいいって思わなかったとしても胸がいっぱいになって満足すると思うな」 体と心は別か。 言われてみるとその通りだと思う。 「でも、潤一はオレとしたいと思ってないかもしれません。1度だけそういう雰囲気になったことがあって。その時に“ごめん、今日は出来ない”って言われたんです」 「長谷くんに経験は?」 「無いって言ってました」 拓海さんて凄い人だ。優しい声で聞かれるとどんどん口から素直な言葉が出てくる。 「男のプライドじゃないかな」 「プライド?」 「僕の考えだけど、好きな子は抱きたいに決まってる。でもどうしたらいいか分からない。相手は経験があるけど、やっぱり主導権は自分がとって、その子を気持ちよくしてあげたい。だから経験者から話を聞いたり、ネットで勉強したり。色々と頑張ってる最中なんだよ。もう少し待ってあげたら? 中間テスト後の3日間は休みで部活も禁止だから、そこで何もなさそうなら自分から誘ったらいいよ。上目遣いに“して”って言えば大丈夫」 そんな可愛い仕草を自分がしたら潤一に引かれないかな? すこし不安になるが拓海さんのお墨付きだし、そうしてみようかな。 「そうしてみます」 「あ、どんなに好きな相手でもコンドームは忘れないように」 完璧に先生の顔になってるし。 「分かってます。あーでも潤一の大きさ知らないからなぁ。たぶんかなりデカイとは思うんですが、明さんてどんなサイズの使ってます?」 「……売ってる中で1番大きいの。それでもキツイって愚痴ってる」 恥ずかしそうに視線を彷徨わせる拓海さんは可愛いな。 「お互い大変ですね。オレの場合は予定ですけど」 「何か困ったことがあったらすぐに言うんだよ?」 なんか母親みたいだ。 「分かりました。ありがとうございました。不安な気持ちとか、色々と払拭出来ました。取り敢えず、中間テスト頑張ってからの話ですね」 憑き物が取れたようにスッキリとした。 拓海さんに相談して良かった。

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