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第50話.天使降臨!

【大事件当日の朝の出来事】 潤一は朝練が終わると部活棟から学校に向かう途中で、中学卒業以来久々にある人物を見つけた。 「ヒロ!」 その人物は立ち止まると振り返った。 「ジュン、卒業以来か? 相変わらずラグビーかよ」 「お前だってサッカーだろ?」 ヒロと呼ばれたのは芹沼浩孝(せりぬま ひろたか)。 サッカー部の期待の新入生で、元々中学時代から地元のサッカークラブでも活躍していて、ファンクラブがある程のイケメン。 軟派なイメージの浩孝と硬派なイメージの潤一が仲良いとは誰も思わないので、2人はかなり目立っていた。 実はこの2人、母親同士が昔からの友達で誕生日も近いため、殆ど一緒に育ったと言っても過言ではなかった。 保育園から高校まで同じになるとは本人達も考えてはいなかったのだが、寮もクラスも部活も違うとなかなか会うことがない。 「ジュンさぁ、今年の新入生の可愛い子達と一緒いるんだって? なんか用心棒だとか言われてるぞ」 まさかその中の1人と付き合ってるとは言えない。 「あぁ、変なこと考えてそうな奴らは追っ払ってるな」 「相変わらず男前だな、そういうところ」 「はあ? 何変なこと言ってんだ。お前はモテてて大変だろ?」 軟派な見た目とは裏腹に浩孝は恋愛には奥手だった。 付き合った人も何人かいたが、その誰にも手は出していない。 それなのに噂だけが1人歩きして、何人もセフレがいる遊びまくっている男ということになってしまっていた。 「モテてるって言えるのか? 変な誘いばっかりで嫌になるよ」 純粋なファンもいるだろうが、どうやらセフレにして欲しいという告白が多いらしい。 「あの変な噂、誤解だって言わないのか?」 「言ったところで、嘘つき呼ばわりだろ。大体100人斬りって何だよ。1人も斬って無いっつーの」 頭を抱える浩孝の肩に潤一は慰めるようにポンと手を置く。 そんなことを話していたら下駄箱に着いた。 下駄箱で靴を履き替えると浩孝は潤一を待っていた。 「長谷くんおはよう」 「河上、おはよう。今日は1人か?」 「静と敦は先に行っちゃったから」 潤一の後ろに誰かいるのか男にしては可愛い声が聞こえる。 「ジュン?」 「長谷くんのお友達?」 潤一の後ろから現れたのは随分と小さい子だった。 クリクリの目でみつめられて浩孝はドキリとする。 「あぁ、こいつは芹沼浩孝で、河上でいうところの敦みたいな奴かな」 「芹沼くん? 初めまして。河上誠です」 ニッコリと笑う誠から目が離せなくなった浩孝はポツリと呟く。 「天使だ」 「え?」 「あ、いや、初めまして。芹沼浩孝です」 浩孝は昔から可愛いものが好きだった。 「じゃあ、僕は先に行くね」 行ってしまう? 止めなきゃ! 「待って、河上くん」 「おい、ヒロ?」 潤一の声も聞こえないのか、横を素通りすると浩孝は誠の目の前で立ち止まる。 「何?」 「好きだ。一目惚れした。俺と付き合ってくれないか?」 「え? あーごめん。僕好きな人いるから」 速攻でフラれた。それでも諦める浩孝ではない。 好きだと思ったものは殆ど飽きる事がないのだ。 「そっか。急にごめん、その人とは付き合ってるの?」 「まだちゃんと話したこともない。でも付き合うって何?」 純真無垢な目で見上げられて浩孝は自分が恥ずかしくなる。 自分に告白してくる奴らと今の自分が重なる。 「そこは忘れてくれ。まずは俺のこと知って欲しい。友達になれないかな」 「友達ならいいよ。よろしくね、芹沼くん」 笑顔が眩しくて浩孝は思わず目を細めた。

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