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第52話.感情①
「どうして可愛いって言われたくないの?」
勉強に対してのどうしてには答えられてもこういう質問の答えは出てこない。
「考えたことない。でも、自分が可愛くないってことだけは分かってるから」
椅子から立ち上がろうとしたら少しフラついてまた座ってしまう。
「静?! 大丈夫?」
「何かするならオレがやるよ」
誠も敦も心配してくれる。
自分がこんなに幸せな気持ちになって良いのかなって、逆に不安になる。
「飲みもの出そうかと思ったんだけど」
「静の分もジュース入れるから待ってて」
「拓海さんはコーヒーだよね?」
「僕もジュースでいいよ」
誠の事が心配なのか僕の頭をポンとすると拓海さんは冷蔵庫の中を見ている誠の所に行った。
また4人でダイニングテーブルを囲むと、ジュースを一口飲んで敦が口を開いた。
「ねぇ静、昨日鈴先生と何かあったよね?」
「え? な、何で?」
「何でって、談話室と階段であんなに見つめ合ってたら誰でも分かると思うけど?」
確かにあの時鈴先生に目がいって、あっちも見てきたから目が離せなくなったけど。
「何も無いよ」
『今だけ静と呼んで、抱き締めて下さい』
と言ったことを言える訳がない。
ダメだと思った時に頭に浮かんだのが鈴先生で、部屋に助けに来てくれたのも先生だったから、あんな事を言ってしまったのか。
それとも他に何かあるのか、自分でも分からない。
「何も無いってことはないだろ? それとも言えないような何かがあったとか?」
あながち間違いではない。でも、鈴先生に無理にお願いしたようなものだし、きっと迷惑だったはず。
これ以上迷惑はかけられない。
首を横に振る。
鈴先生のことを考えるだけで胸がキュッてなる。
これは何なんだろう。
胸の辺りに手を置いてみてもその状態は変わらない。
「僕も気になってたんだよね」
「拓海さん?」
何か嫌な予感がする。
「電話で鈴に聞いてみようか」
スマホを取り出す拓海さんを止めたいけど、何も無いって言っちゃったし。
でも……。
「やめて」
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