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第53話.感情②

「どうして?」 拓海さんはスマホを操作する手を止めてこっちを見る。 何と言っていいのか分からない。 もう一度やめてって言おうとしたらインターホンが鳴った。 「僕、行きます」 今度は立ち上がってもふらついたりしなかった。 インターホンの通話ボタンを押すとモニターに来客者が映し出される。 ウソ?! どうして? 「はい、今行きます」 みんなに気が付かれないようにと、玄関に急ぐ。 靴を履くのももどかしくドアを開けると、すぐそこにいるとは思わなくて体当たりしてしまった。 「おっと、本島くん?」 あの時のように抱き締められるような感じになる。 離れなきゃって頭では分かってるはずなのに、ギュッてして欲しいと思ってる自分がいる。 「ごめんなさい」 今はそれよりも伝えないといけない事がある。 「鈴先生、昨日の僕が言ったこと、聞かれても言わないで。お願い」 「分かった。あれは2人だけの秘密な」 「2人だけの秘密?」 それは甘く心の中に広がっていく。 鈴先生を見上げたら、ニッコリ笑って頷いて僕の頭を撫でてくる。 笑顔が僕1人に向けられたのは初めてだと思う。 よく分からないけど、幸せの波に包まれているような感覚がした。 「はい」 鈴先生の目が大きく見開かれて、急に手を握られた。 「先生?」 僕の動揺は伝わっていないのか、鈴先生は手を繋いだままリビングへと戻ってしまう。 「兄貴」 「鈴」 「鈴先生?」 「何で2人は手を繋いでるの?」 最後の敦の言葉にも手を離そうとしないから、繋いだ手はどんどんと鈴先生の熱に溶けてしまいそうになる。 「鈴、何かあった?」 「今、本島くんが笑った」 え? 笑ったって僕が? 信じられなくて思わず鈴先生を見ると、また僕を見て微笑んでいて溶けそうに熱くなっていた手の熱が色々な所に移動していく。 行き場をなくした熱は顔から一気に放出される。 「静、顔真っ赤だ」 「オレも笑顔見たいんだけど」 「僕が1番に見たかったんだけどね」 なんか、3人が騒がしくしているのが遠くの出来事の様に感じた。

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