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第54話.笑顔①
✳︎時間経過に注意
昨日の事件のことは寮の中でも話題になっていた。
詳しい事までは分からなくても、あいつらが退学になったらしばらくは噂も飛び交うだろう。
あの子にそれが耐えられるのだろうか。
心配になる。
昨日は何も考えず、本島くん、河上くん、佐々木くんの3人を明さんの家に行かせたが、外泊許可書が必要で書類を提出しなくてはならなかった。
昨日の本島くんの言葉も気になるので、俺は書類を持って明さんの家に向かっていた。
日差しが段々と夏に向かっていることを感じさせる。
普段校内や寮にいる時はスーツかジャージだが、こうやって外出する時はTシャツにジーパンという大学時代に戻ったような格好になる。
やっぱり楽だよな。
明さんの家に着くと毎回思うのだが、やっぱり今日も大きい家だと思う。
2世帯住宅になっているというが、ほとんど2つの家が真ん中でくっついただけ、という出で立ちだ。
家の前でウロウロしていて通報されてもいけないので、インターホンを鳴らした。
いつもなら何も言わずにドアを開けるのに、
『はい、今行きます』
という声がした。
ドアの前で開くのを待っていると、誰かが飛び出てきた。
「おっと、本島くん?」
飛び出てきたのは真っ白なフリフリのエプロン姿の本島くんだった。
抱きとめるような形になる。
「ごめんなさい」
顔は上げずに、少し距離を置く。
「鈴先生、昨日の僕が言ったこと、聞かれても言わないで。お願い」
みんなに何か聞かれたんだな、ということが容易に想像できる。
「分かった。あれは2人だけの秘密な」
「2人だけの秘密?」
下から見上げられて、やっぱり頰は青紫色に変色していて、目の下にもクマが出来ている。
それでも、エプロン姿の本島くんはかなり可愛くて動揺する。
その動揺を隠すように笑って頭を撫でると、聞き返してきた言葉に頷く。
何度か瞬きをしてからふにゃ〜っと本島くんの顔が笑顔になる。
「はい」
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