57 / 489
第56話.恋、なのかな?
鈴成が拓海に連れられて書斎に入ると、未だに顔を真っ赤にしている静はその場に座り込んでしまった。
「静、大丈夫?」
静はさっきまで繋いでいた手を見つめる。
自分に何が起こっているのかが分からない。
「静?」
ようやく呼ばれていることに気がつくと、心配そうな顔をしている誠と敦に顔を向ける。
「これ、飲む?」
誠にさっきのジュースを渡されると、静はそれをいっきに飲み干すと、立ち上がって空になったコップをシンクに持って行った。
ダイニングテーブルのさっきまでいた所に座ると静は1つ息を吐いた。
「なんで鈴先生と手を繋いでたの?」
もう一度敦は聞いてみる。
「なんか、急に繋がれて……よく分からない」
静はまた手を見つめる。
「笑ったの?」
誠に聞かれるが、静にその自覚は無かった。
「分からない。鈴先生にそう言われたけど、そんな記憶無いし」
自分の事のはずなのに、分からないことだらけだった。
「静は鈴先生のことどう思ってるの?」
「え? どう?」
質問の意図が分からない。
「好きなのかなって思って」
「そ、そんな訳ない。それに僕がなんて迷惑だよ」
静は俯くとエプロンの端をぎゅっと握る。
誠に拓海が言っていたことを静は思い出していた。
『恋をすると会いたいとか名前を呼んで欲しいとかもあるけど、それ以上に触りたいとか、抱き締めて欲しいとか、そういう想いが出てくる』
『静と呼んで、抱き締めて下さい』
昨日鈴成に言った言葉を重ねてみる。
その他にも『本島くん』ではなく『静』と呼ばれたいとか、さっきも体当たりした後そのままぎゅってして欲しくなったとか、笑顔を独り占めして嬉しくなるとか。
自分は鈴成に“恋”をしているのだろうか?
1人で考えても答えは出ないが、静は全てをさらけ出して相談も出来なかった。
書斎のドアが開く音がして、そちらを見るとまた静と鈴成は目が合う。
静はすぐに視線を外すと俯いた。
ともだちにシェアしよう!