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第61話.料理

スーパーからの帰り道、静の両隣は敦と誠がガッチリと固めていた。 少し間を開けて後ろから拓海と鈴成が歩いていた。 「鈴、さっきの本気だったろ?」 「ん?」 ごまかそうとしても無駄だと分かっていながらも素直になれない。 「『俺はこの子の恋人だ』ってやつだよ。気持ちを伝えられないって言ってなかったか?」 「……1番初めに“話し合わせて”って言ったから、本島くんは本気だとは思ってないかな」 拓海は感情を押し殺して無表情であろうとしていた静のことを思い出して、前を行く3人を見つめる。 「なるほどね」 「なるほど?」 「無駄に静くんのこと傷つけないでよ」 「そんなつもりはないぞ?」 拓海だって鈴成が静のことを傷つけようとしていたとは思っていない。 でも、結果的にあの子は傷ついていた。 それを何とも思ってないと装っているのだ。 「分かってる。でもあの子は繊細だから」 その後は誠と敦が静のことを少しでも元気付けようとしながら歩く姿を2人は何も言わずに眺めていた。 家に帰ると静は休むことなく、料理を始めた。 「まだ時間あるし、少し休んだら?」 「出汁の準備だけしたら少し座ります」 鍋に昆布と水を入れると静はコップとジュースと麦茶を用意してダイニングテーブルに向かう。 「オレンジジュースと麦茶どっちにします?」 自分のコップには麦茶を入れて、みんなを見回す。 「とりあえず座ったら? 飲みたいものを自分達で入れるから」 拓海に促されて椅子に座ると、今まで緊張していたことに気がつく。 30分程すると静はエプロンを着けてキッチンに立って料理を始めた。 部屋にいい匂いが充満する頃には、みんなのお腹も空いてきていた。 明が帰ってくる約1時間前の6時には直前に作るだし巻き卵以外は出来上がった。 「もう食べれる?」 「まだダメ」 誠がシュンとうなだれる。 「肉じゃがは1度冷ました方が美味しくなるんだよ。明さんが帰って来たらみんなで食べような」 そう言いながらお米を炊くのを忘れていたことを思い出した。 6人分だからと少し多めに準備をし、みんなで明の帰りを待つ。 7時を少し回ったところで明が帰ってきた。 「ただいま」 「おかえりなさい!」 待ち侘びていた4人は声を揃える。 「おかえりなさい、明さん。ご飯は殆ど出来ているので、着替えて来て」 静の手首のアザの件は拓海から連絡があった。 今は包帯が巻かれていて見えないが手の形にクッキリと付いているという話だった。 「すぐ戻るよ」

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