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第63話.勉強が手につかない
誠と敦と一緒に隣に移ると、静は勉強の為にノートを広げるが全く集中出来なかった。
「静、何考えてる?」
「え?」
敦もペンを置くと静を見た。
「鈴先生のこと?」
静は少し苦しそうに顔を歪めてから小さく頷いた。
「話せることからでいいから、話してみて。オレ達が全部聞くから」
「勉強しないと」
先程とは打って変わって言葉に威力が無い。
「静のことが気になって勉強にならないの」
「僕もだよ。話してくれるなら僕は何も言わないで聞いてるね」
勉強出来ない理由が自分にある、と言われたら話さない訳にもいかない。
何をどこから言えばいいのか分からないが、静はポツリポツリと話し始めた。
「今までなんの前触れもなく触られて大丈夫な人なんていなかった。それが、鈴先生だけは何ともなくて。訳が分からなかった」
「うん。それで?」
敦も誠も真剣に自分の話しを聞いてくれている、それが分かるから自分も真剣に話さなきゃと静は思っていた。
「拓海さんに無条件で僕に触れる人がいたら、それは僕の運命の相手だと思ってたって言われて。それから鈴先生のこと気になるようになって」
喉が乾くのか、静は麦茶を少し飲む。
「校内でも寮でも鈴先生のこと目で追ってた。何もしてない時とか気がつくと鈴先生のこと考えてて、なんか胸がキュウッてするんだ」
「そっか」
ニヤッと笑う敦を気にしつつも静は続けた。
「昨日も、もうダメだって思った時に頭に浮かんだのは鈴先生だった。明さんでも拓海さんでもなく」
「で、鈴先生が助けに来てくれて、何があったの?」
ブランチの後に聞かれたことをもう一度聞かれた。
「言えない」
「えー。なんで?」
「鈴先生に言わないでって頼んだら、2人だけの秘密だって言われた…から」
言われた時のことを思い出して静はまたふにゃ〜と笑顔になる。
「可愛い、あ、ごめん黙ってられなかった」
「本当に可愛いな。……そういえば、誠はなんで黙ってんの?」
「だって、好きも恋も分からないもん。そういう話になるのかなって思ったから」
「それにしてもこんな幸せそうに笑うの見たら、もう聞けないよなぁ。……あぁ、気になる!」
2人の会話は聞こえていないのか、静はしばらく笑顔のまま空中を見つめていた。
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