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第79話.胸の内
「嫉妬に心当たりがある?」
「え? あの、さっき、鈴先生とハル先生が抱き合ってるの見て、嫌だって思った。でも何が嫌なのか分からなくて」
静の声は段々と小さくなり、俯いてしまった。
「もし抱き締めている相手が俺じゃなくて、泣きそうな河上くんだったら? 嫌だった?」
「え? 誠だったら嫌じゃないです」
静は顔を上げて不思議そうな顔をする。
「俺と河上くんは何が違うのかな?」
「……ハル先生は鈴先生に恋してるって思ってました」
「そんな人と抱き合ってたら、それに答えたって思ったんじゃない?」
その時のことを思い出しているのか、静は苦しそうにして頷いた。
「地迫先生と俺が付き合うかもしれない、それが嫌だった。違う?」
「そう、かもしれない、です」
「何で嫌なのかな?」
何で? 僕がそうしたいから。
そう思ったら恥ずかしくてどうしていいか分からなくなる。
顔から火が出るかと思うほど熱くなった。
「何で嫌か言ってみて」
「え? 無理」
静の答えにハルはニヤニヤする。
「どうして笑ってるんですか?」
「だって、何で嫌なのか分かったんでしょ?」
「それは………」
ハルは1つ大きな溜め息をついた。
「俺はここまでかな」
「ハル先生?」
「地迫先生も来てるんだよ。先に謝って来いって言われたんだ。まさか友達になれるとは思ってなかったけど」
ハルはニコッと静に笑いかけた。
「誰かに言わされた言葉なんて良くないと思う。自分から胸の中にあるもの全部言いなよ。地迫先生は優しいからちゃんと聞いてくれるさ」
鈴成が優しいことは静だって分かっていた。
誰にでも優しいのが問題なのである。
「ハル先生、教育実習が終わってもまた会ってくれますか?」
「それはもちろんだけど、まだ実習は結構続くよ? 中間試験の後も一週間はいるから」
試験を挟むという事は、確かにまだ時間はたくさんあるように感じるが、その分時間は短く感じるということだ。
「あの……」
「時間稼ぎはもうやめなよ。地迫先生呼んで来るね」
最後は時間稼ぎをしようとしたが、それまではそんなことなかった。
静は本当に実習が終わってからもハルと会いたいと思っていた。
玄関の扉が開く音が少し間をあけて2度聞こえる。
「本島くん」
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