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第84話.質問責め②
「静は鈴先生とキスしたんだ。そうなるとした事がないのは僕だけだね」
誠はなんだか置いてけぼりにあったような気持ちになっていた。
「したって分かってない時点で、回数に入れていいのか僕には分からないけど、こういう事は競い合うものじゃないと思うよ。誠がしたい、して欲しいって思うまで待った方がいいと思うけどな」
静は誠の頭を撫でる。
誠は分かっているのかどうかはあやしいが、コクンと頷いた。
「そもそも今、キスしたい人とかいるのか?」
誠は敦を見てキョトンとする。
「キスしたい人? うーん、いない」
一瞬浩孝の顔が浮かんだ誠だったが、友達とはそういう事はしないはずだからと除外した。
「生徒会長はどうした?」
そういえば最近全く考えることすらないことに誠は気がつく。
「間違いだったんだと思う。あの好きは、本当の好きじゃなかったんだと思う」
静が鈴成に好きだと言ったのは無意識だと聞いて、誠はそれが本当の好きなんだと思ったのだ。
「だったら、そういう人が出来てから考えろよ。相手がいなきゃ出来ないことなんだから」
「そっかぁ、そうだよねー」
誠はまたニコニコ顔に戻る。
「そういえば静は明日、明さんのところに行くんでしょ?」
誠の質問に静はギクリと体を揺らす。
「うん、その予定だけど?」
「何しに行くの?」
「え? そ、それは………」
なんと答えていいのか分からず黙り込むが、静の顔が一瞬で真っ赤に染まるのを見ると、今度は敦が質問をする。
「もしかして、鈴先生も一緒に行くの?」
「え? ……うん、一緒に行こうって言われたから………」
「それって両親への挨拶ってこと?」
敦が興奮気味に静に詰め寄る。
「そう、なのかな?」
「何で疑問形?」
「何を言うつもりなのか、教えてくれなかったから」
全く何も知らなかったら、こんなに顔を真っ赤にするかな?
敦は疑問をそのまま静にぶつける。
「それでも、何かこうじゃないかな? ってことはあるんじゃない?」
「先生、僕との先の事を考えてくれてるみたいで」
どんどんと小さい声になる静が可愛くて敦は頭を撫でる。
「そっかぁ。相手が大人だと展開早いな。ちょっとだけ羨ましいかも」
「え?」
静は自分の気持ちがちゃんと分かる敦が羨ましかった。
それなのに敦は自分のことを羨ましいと言う。
人生はなかなか上手くはいかないものだと2人共思っていた。
「とにかく、明日のことはまた報告し合うって事で、いいよな?」
「待って。敦のことまだ聞いてないよ?」
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