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第88話.【誠の休日】これってデートなの?!①
「河上くん、ごめん。待ったよね?」
「ううん、大丈夫。先輩のお話って何だったの?」
「え? あぁ、休みだからって自主練まで休むなって」
うわ、いきなり嘘とか胸が痛い。
浩孝は嘘が嫌いだったが、今回ばかりは仕方がないと自分に言い聞かせる。
「そっか。大変だねー」
この身長差だ。誠が浩孝を見上げることになるのは当たり前の事なのだが、上目遣いで見られると可愛くて浩孝はニヤニヤしてしまうのを抑えるのに必死だった。
「あ、そうだ。僕のことは誠でいいよ? みんなそう呼んでるし」
あくまで“友達”として接されるのも悲しいのだが、名前で呼んで良いと言われるのは嬉しい。
「なら俺も浩孝でいいよ、誠」
名前を呼ぶだけなのになんか甘ったるい。
呼ばれた誠もドキッとしていた。
「うーん、ヒロくんでいい?」
それを隠すように、誠も名前で呼んでみる。
何だか恥ずかしい。
「あ、うん。それで良いよ」
小さい頃は誰からもヒロくんと呼ばれていた浩孝だが、今、そう呼ぶ人はいなかった。
誠だけがそう自分を呼ぶ。特別なことのようで浩孝はくすぐったく感じていた。
「ヒロくん、今日はどこに行くの?」
「決めてないよ。ぶらぶら歩いて、気になった所に寄るってしようと思ってる」
微笑まれてまたドキッとする。
誠は胸に手を置いて首を傾げる。
「誠? どうかした?」
「え? ううん。何でもないよ。楽しみだなーって思ってたの」
「そっか」
いつものように笑顔を向けると浩孝に頭を撫でられる。
いつも敦や静に撫でられるのとは何かが違う。
胸の中に小さな火が灯るようにポワッとして、誠は不思議そうに浩孝を見上げた。
「バス、来たな」
「え? 本当だ。乗れるかな?」
「大丈夫だろ?」
バスが来るのと同時に敦と潤一の姿を見つけた浩孝は潤一に目配せをする。
あっちも気が付いたようですまないと手を合わせた。
きっと敦に連れて来られたのだろうと容易に想像ができる。
バスに乗り込むと周りの壁になる様に浩孝は誠の前に立つ。
「乗れたね」
至近距離で見上げてニッコリ笑う誠のあまりの可愛さに抱き締めたい衝動を抑えると、浩孝も誠に微笑んだ。
「やっぱり芹沼くん、カッコイイよね!」
「でも、ほら、あの子と付き合ってるんでしょ?」
「確かにお似合いだよね。悔しいけど。あんな優しい顔、見たことないし」
「だねー」
周りから聞こえてくる声に2人とも恥ずかしくなる。
最近一緒にお昼を食べるようになってから、付き合っていると噂されている事は浩孝も知っていた。
知っていたが、こう直接耳にすると気恥ずかしい。
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