91 / 489

第90話.【誠の休日】これってデートなの?!③

可愛いなぁ ゲームセンターで見つけたテディベアが可愛くてガラスにへばりつく。 「欲しいの?」 「ヒロくん! 取れる?」 自分に話しかけるのは浩孝しか居ないと思って言ったら知らない人だった。 「ごめんねぇ、ヒロくんじゃなくて」 「誰? むぐっ」 後ろから口を塞がれ、両側から他の人たちに囲まれて僕は何処かに連れて行かれてしまった。 静から護身術を習ったはずなのに、全く体は動かない。 怖くてカタカタ震えるのが自分でも分かる。 「震えちゃってかーわいい」 床に座る形になって後ずさると、リュックに付けた鈴がチリンと鳴った。 『何かあったら紐を思いっきり引っ張るんだからね!』 静に昨日の夜何度も言われたことを思い出す。 誠はリュックに付けた防犯ブザーの紐を握ると思いっきり引っ張った。 ピロピロピロピロピロピロピロピロピロ 耳を塞いでも大きい音は止まらない。 「な、何だよこれ」 「ヤバくないか?」 「逃げるぞ!」 なんだなんだと人が集まってくる。 逃げた人物には目もくれず、浩孝は音のする方に走る。 人だかりをすり抜けると誠を見つけて名前を呼ぶ。 「誠!」 「ヒ、ヒロくーん」 浩孝は誠から紐を受け取ってまずは防犯ブザーの音を止める。 その間も誠は浩孝のサマーニットの端をつかんでいた。 そんな誠を浩孝は抱き締めると背中をポンポンとあやすように叩く。 「ごめんな。怖かったな。もう大丈夫だよ」 「僕がいけないの。敦と静に何があってもヒロくんから離れるなって言われてたのに」 「いや、目を離した俺が悪い」 そんな押し問答をしていたらゲームセンターの人に話しかけられる。 「すみません、大丈夫でしょうか?」 この人が悪い訳ではないことは分かっていたが誰かにあたらないと気が済まなかった。 「大丈夫じゃないって見て分かりませんか?」 「ですよね」 歯切れの悪い店員に誠が質問をする。 「何か僕に用ですか?」 「まずは謝らせて下さい。本当に申し訳ありませんでした。先程犯人を捕まえたのですが、合っているか確認をして頂きたくて。もちろん無理にとは言いません。ただ、今までに何人も被害に遭われた方がいまして………」 「いいですよ」 誠はハッキリとした口調でそう言った。

ともだちにシェアしよう!