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第110話.【静の休日】天国と地獄①
敦と潤一に見送られ、職員室に向かう。
静は実家に、鈴成は兄の家に行くということで、一緒に行っても怪しまれることはないだろう。
職員室のドアをノックして中に入ると鈴成とハルが話をしていた。
「鈴先生、ハル先生」
「本島くん、今回も1位、流石だね」
鈴成はまだ先生の顔をしている。
生徒は私服でも先生はスーツだ。
「いえ」
そう言いながらも鈴成に褒められれば嬉しいので自然と微笑む。
「静くん、私服も可愛いね」
「え? 普通ですけど?」
静はもともとあまり肌を露出させないのだが、今日は白のポロシャツに黒のハーフパンツという出で立ちだ。
「そろそろ行くか」
鈴成は開いていた資料を閉じると伸びをした。
「寮に寄って着替えてくるから守衛さんの所で待っててくれるか?」
「はい、分かりました」
「じゃあ、そこまで一緒に行こう?」
ハルに誘われて静はそうですね、と笑う。
ハルとは何故だか会話が途切れることがない。
きっと話題が豊富なんだろう。
「地迫先生走って来たね。あ、今度一緒に買い物にでも行こうよ。ね?」
「はい。楽しみにしてます」
鈴成はTシャツにジーパンで斜めがけのカバンをかけていた。
「ごめん、待ったよな?」
「ハル先生と話してたらあっという間でしたよ?」
「そうか。諸角も気を付けて帰れよ」
鈴成の言葉にハルはふふっと笑う。
「大丈夫です。そこに迎えが来てるので。では、また来週に」
「はい。また来週に」
ハルは小走りにそこに止まっていた車の所まで行くと振り向いて手を振ってから助手席に乗り込む。
静と鈴成も手を振り返した。
「俺達も行くか」
「そうですね」
静は車全般に乗れないので、バスを使わずに歩いて駅まで向かう。
鈴成の隣を歩く。そんな何気ない日常が崩れ始めていたことにその時は誰も気がつく由もなかった。
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