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第113話.【静の休日】天国と地獄④

【御触れ】 それは大野家の現当主である大野 秀明( おおの ひであき)が出したもの。ターゲットに選ばれた者は秀明の元に来るように命ぜられる。 断ったり、行くのを躊躇うと、ターゲットの大切な人を1人、また1人と消していく。そして、最終的に自分にやめて欲しいと縋ってくるのを待つのだ。 ターゲットが大野家の中でどのように扱われるのかは知られていないが、秀明の慰み者になっているともっぱらの噂だ。 拓海と鈴成に聞かれていると思うと、きちんと話が出来そうもなかった。 静は明に離してもらって一旦2人のところに戻った。 「明さんと2人で話をしたいので、隣で待っていて下さい。終わったら声かけますから」 「分かった、待ってる」 「本当に2人だけで平気?」 「大丈夫です」 静は2人が隣に行ったのを確認してから廊下に続く扉をしっかりと閉めて、明の所に戻った。 「静を行かせたくない」 「ありがとう。でも行くよ。ただ、行くのは明日にして欲しい。そう伝えて」 明は愛しい甥っ子をもう一度抱き締めようとして指輪に気がつく。 「静? それ?」 「鈴成さんにさっき貰ったんです………こんなことなら、こんな気持ち、知りたくなかった! なんで? なんで今?」 静は苦しい涙を流す。それは止まることが無さそうだった。 幸せの絶頂にいたはずだったのに、それはとても脆くてもう粉々に散ってしまった。 「幸せに、なりたいなんて……やっぱり、思っちゃ、いけなかったね」 明はなんて返せばいいのか分からず静をギューッと抱き締める。 「ごめん。返答に、困ること、言って」 本当ならワンワンと見境なく泣きたい静だったが、そういう訳にもいかない。 自分が明日の朝姿を消すまでに何をしなくてはいけないかを必死に考える。 「明さん、明さんも、明日、海外に、行って」 「静?」 「それで、僕が、出てきたら、戻って、きて」 本当は自分が戻って来られるかわからなかった。現当主である秀明が死なないと自分が解放されることはない、静はそう思っていた。 それは明日なのかもしれないし、3年後、5年後、10年後なのかもしれなかった。秀明が死ぬ前に用済みだと殺されてしまうことも考えられる。 それでも、静には“行かない”という選択肢はなかった。

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