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第117話.【静の休日】覚悟③
拓海さんの言う“準備”がああいう事だとは思っていなかったから、準備が終わってから拓海さんの事をまともに見られなかった。
「静くん、恥ずかしい思いをさせてごめんね。でも、準備は大切だから」
申し訳無さそうに微笑む拓海さんに抱きついた。
「大丈夫。教えてくれてありがとう」
隣に移ったら、拓海さんにはしばらく会えなくなる。
悲しいし、苦しいけど笑顔を覚えていて欲しいと思う。
「鈴に任せれば大丈夫だから。声を我慢すると苦しくなるから我慢しない方がいいよ」
ポンポンと優しく背中を叩かれて、僕は小さく頷いた。
「行ってきます」
色々な意味を込めてそう言うと、拓海さんを見た。
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔でそう言われて、多分自分も自然に笑顔になったと思う。
隣に移る途中で敦と誠の3人で作ったJOINのグループに今日は明さんのところに泊まると入力した。
さよならと心で言って送信ボタンを押す。
隣のリビングダイニングに行くと、そこには鈴成さんがいた。
「あ、静」
シャワーを浴びたのだろう。髪の毛はまだ濡れていて、上半身も裸だった。肩にかけてあるタオルが垂れる水を吸い取っていく。
そばまで行って抱きつくと顔を見上げる。
「鈴成さん、あの、えっと」
頭の中で考えていた通りには中々いかない。
緊張を解こうと息を吐いても、ドキドキはおさまらなかった。
「ゆっくりでいいよ。いくらでも待つから」
穏やかに微笑む鈴成さんを見たら落ち着いてきた。
ゆっくりしている時間はない。こうしている間にも一緒にいられる時間は刻一刻と過ぎてゆく。
「……抱いて…下さい……」
「え? 意味分かってる?」
驚いたように僕を見ている。
「ごめんなさい。こんなこと言ってはしたないですよね」
きっとこういうことはこちらから言うものでは無かったんだと思う。
俯いて腕も下ろした。
嫌われてしまっただろうか。指輪も返さなくちゃいけないかな。
どんどんと考えが暗い方へと向かい始める。
ギュッと抱きしめられて反射的に顔を上げる。
「謝らなくていいよ。静にそんなこと言われたら止まらなくなっちゃいそうでさ」
少し困ったように笑う鈴成さんを見て、とりあえず嫌われた訳では無さそうでホッとする。
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