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第119話.出発
部屋から出てシャワーを浴びると用意していた着替えに腕を通す。
鈴成さんとの行為で痛めた腰も、まだ何か入っている感覚があるそこも、さっきまでの事が夢では無いと教えてくれる。
時計を見ると午前2時だった。
スマホで明さんから教わった通りに動画を撮る。
それが終わるとSDカードを取り出してスマホは机の上に置いたまま、目の端に溜まった涙を拭いて隣のリビングダイニングに移った。
明さんはソファに座って下を向いていた。
「明さん」
声をかけると苦しそうな顔をしてこちらを見た。
「静、鈴成くんは?」
「僕の持っていた睡眠薬でグッスリ寝てる。拓海さんは?」
「今はまだ寝ていると思う」
「そっか。じゃあ、僕はもう行くね」
明さんに強く抱き締められる。
僕も腕を背中に回してギュッとする。
「行ってきます……必ず戻ってくるのでさよならは言わないよ。またね、明さん」
「あぁ、またな、静」
バイバイと手を振り、家を出た。
出た瞬間に涙が溢れてくる。
それでも、その場にとどまることは出来ないから歩き始めた。
家から1番近い公園で足を止める。
涙は流れていることが当たり前のように、止まる気配はなかった。
ベンチに座ってまだ暗い空を見上げる。
都会の空は狭くて、星もほとんど見えない。
何度も深呼吸をする。ようやく涙が止まったら目の端にある人物が入り込んだ。
家を出た時から後ろを付いてくる気配は感じていた。
大野家が監視をつけない訳がなかった。
「静さん」
「やっぱり晴臣さんだったんだ。最近僕の周りにいたよね」
監視役は後藤晴臣 。元々は本島家に仕えていた人だ。父さんが死んでから大野家に雇われたのだろう。
「今日は私しか付きません。正午には大野家に入って頂きますが、それまでは何処へでもお供致します」
昔と変わらない真面目な態度と口調。
どう考えても自分よりも年上なのに、丁寧な言葉遣いは相変わらずだ。
「CLASSYのジュエリーショップに行くから」
「かしこまりました。歩いて向かわれるのですね?」
「うん。行こうか」
歩き始めると後ろにぴったりとついてくる。
おそらく警察に会っても保護者に見えるようにだろう。
僕は監視役が晴臣さんで良かったと思っていた。
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