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第120話.指輪①

CLASSYのジュエリーショップに着くと、そこには諒平さんが待っていてくれた。 「私は外にいますので何をされても私には分かりません。ここを11時には出発致しますので、そのおつもりでお願い致します」 「分かった。ありがとね。あ、1つだけ質問。秀明さんの指輪のサイズっていくつ? 手土産持って行かないと」 「秀明様の指輪のサイズは、22号ですね。では、後ほど」 晴臣さんはここであったことは他言しないと言いたかったんだろう。 お店に入って時計を見ると4時半になるところだった。 「静ちゃん! 明きゅんから話しは聞いたけど大変なことになってるわね」 諒平さんは御触れのこともターゲットのことも知っている。 「ふぁっ、オーナー、こんなに早く呼び出しとかやめて下さいよ」 ドアが開いて髪の長い綺麗な女性が入って来た。 「アヤメちゃん、ごめんなさいね。貴女にしか出来ないことだから。臨時ボーナス出すから許して」 「臨時ボーナス? 嘘だったら叩きのめすから……あら、可愛いお客様ね」 アヤメと呼ばれた人は諒平さんから僕に視線を移すと微笑んだ。 「あの、指輪の加工をお願いしたくて」 指から外してチェーンに通し首から下げていた指輪をアヤメさんに渡す。 「あら、これ、先日の。サイズ直し? 最後までサイズが大丈夫か悩んでらしたから」 「サイズはピッタリでした」 「じゃあ、何を?」 本当は言いたくないことを言葉にする。 胸の辺りが痛くてポロシャツを掴む。 「全く別の指輪に加工して欲しいんです」 「送った人の気持ちは無視するの? そんなの反対だわ」 アヤメさんの言うことは正論で言い返せない。 「そう、ですよね。ごめんなさい」 自分勝手な理由で指輪の加工を頼むのは、やっぱり間違っているんだ。そう思ったらまた涙がこみ上げてくる。 「アヤメちゃん、静ちゃんの言い分も聞いてあげて? この子だって指輪をもらって嬉しかったのよ」 「嬉しかった? こんなに苦しそうなのに?」 きっとここに来る人達はみんな幸せで、満面の笑みを浮かべているんだろう。 自分もそうなれるはずだった。 「ちょっと、泣かないでよ。分かった。話だけは聞いてあげる。それでどうするか決めるわ」 「アヤメちゃん、ありがと。それと、コレが静ちゃんが嬉しかったっていう証拠よ」 アヤメさんの言葉に、自分が泣いていると気が付いた。 もう枯れるほど泣いたと思っていたのに。 諒平さんのスマホの画面を見たアヤメさんは息をのむ。 「これ、パンフレットにしたいくらいよ! ちょっとあなた、こんなに嬉しそうにしてたのにどうして?」 画面を見せられて驚いて涙も止まった。 それは鈴成さんが撮った写真だった。

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