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第121話.指輪②
まだ御触れのことを知らなくて、こんなに幸せで良いのだろうか、なんて思っていた時の写真。
画面の中の自分は今の自分とは別人だった。
「…どうしても行かないといけない所があるんです……」
「どうしても?」
アヤメさんは優しい声で聞いてくる。
「大好きな人達を守りたいから。……そこに行くとしばらく外の世界とは隔離されるので………」
「隔離っていつの時代の話しよ」
アヤメさんの言いたいことも分かる。
でも、今の大野家は警察も思いのままで何をしても事件にはならない。
逆に事件は隠蔽 され、事故として処理されてしまう。
「僕だって、指輪はこのまま持って行きたいです。でもそうしたらその場で捨てられることは明白で……」
僕は俯いていた顔を上げてアヤメさんを見つめた。
「どんな形でもいいから、その指輪を持って行きたいんです。それがあれば何があっても自分でいられるだろうから」
アヤメさんの手にある指輪に視線を移す。
「それでオーナーは私を呼んだんですね?」
「そういうことよ。お願い出来るかしら?」
アヤメさんは仕方ないといった感じに溜め息をつく。
「分かりました。どんな指輪に変身させたいかは決まってるの?」
「亡くなった母の指輪ということにしたいです。17年前位のもので、2年前に事故があったので大きめの傷もあるかと。父の名前が実で母の名前が明美です」
アヤメさんはメモを取りながら資料をパラパラとめくる。
「約20年前というと、この辺りが流行 だったはず。デザインはどれが一番似ているかしら?」
色々ある中で1つに釘付けになる。
母さんに“綺麗でしょ?”と見せられた記憶がよみがえる。
「これで間違いないです」
指を指すとアヤメさんを見た。
「これね。分かった。あ、安心して。元の指輪には傷1つ付けずに加工するから」
「え?」
「だから私が呼ばれたの。一応この加工は私が考案したものだから。ただ1つだけ注意点があるの。今回の加工を剥がして元の指輪に戻すことが出来るのは最長で1年半。それを過ぎたら元に戻すことは出来なくなるわ。それでもやる?」
元々、指輪が原型をとどめないだろうと覚悟して来ていたから、1年半もそれが先延ばし出来るのなら逆に嬉しいことだった。
「はい、お願いします。あ、それと手土産として22号の指輪を1つ新しく作って欲しいのですが」
「それも私に任せて。怨念と呪いを込めてデザインするわ。あなたはオーナーとバックヤードにいなさい。特殊なメッセージカードがあるから、大好きな人達に小さな手紙を書くといいわ」
「あの、ここにいられるのは11時までなのですが」
「大丈夫よ。私を信じなさい」
アヤメさんは髪を束ねてゴーグルをして指輪の加工を早速始めた。
「静ちゃん、こっち」
「はい」
元の指輪に傷が付かないといっても、やはり鈴成さんに対する罪悪感は拭えなかった。
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