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第122話.メッセージカード
諒平さんにバックヤードに連れて行かれる。
「何か飲む?」
「ではお茶を。出来れば温かいもので」
「分かった」
諒平さんが持ってきてくれたお茶を一口飲むとざわついていた心も少しだけ落ち着いた。
「静ちゃんは強いわね」
諒平さんはそう言いながらメッセージカードを持ってきて僕の目の前に座る。
「そんなことない。本当は逃げ出したいって思ってるし」
「そんなの当然よ。あ、このメッセージカードは二重になってて、下に書いたメッセージは特定の光を当てないと読めないようになってるの。だから秘密のメッセージも書き込めるわ。何枚使っても大丈夫よ」
諒平さんは優しく微笑んでいる。
「ありがとうございます、諒平さん。あの、預かって欲しいものがあって。これ、メッセージカードと一緒に持っていて下さい。1年経っても行方不明のままの時にみんなで見て下さい」
家を出る直前に撮った動画のデータが入ったSDカードを諒平さんに渡した。
「持っているのは私でいいの?」
「巻き込んでごめんなさい。でも、持っていて貰えるかな?」
「気にしなくて大丈夫よ。分かった。大切に持ってる。でも、これを見る機会がないことを祈るわ」
「そう、だね」
1年で何とかなれば指輪も元通りに戻るし言うことなしだが、そんなに早く解放されるのだろうか。
「あの、メッセージカードを書き終わったらここにもう1人入れてもらっても良い?」
「構わないけど、誰?」
「僕の監視役の人、晴臣さんだったの」
諒平さんは目を見張った。
「晴臣ってあの晴くん? 実きゅんの秘書兼ボディガードだった?」
黙って頷く。僕もまさか大野家にいるとは思っていなかった。
僕の監視役をするくらいだから、きっと秀明さんの近くにいるんだろう。
「色々と聞きたいことがあるんだけど、外だとちょっと……」
「店の前に立ってるのがそうね。分かったわ。メッセージカードを書き終わったら教えて。連れて来るから」
「ありがとね、諒平さん」
メッセージカードに小さな字でみんなに手紙を書く。
1人に1枚と決めて書くが、自分の想いは書ききれない。
伝えたいことだけを抜粋しても足りなくなる。
それでも何とか全員に書き終わる。
表の見える所には全て同じ言葉を書いた。
『ごめんなさい、さようなら 静』
本当の気持ちは中に綴った。
このメッセージカードはいつ頃読んでもらうのが良いのだろう。
そんなことを考えながら諒平さんに晴臣さんを連れてきてもらった。
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