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第124話.サファイア
見た目は本物のサファイアの様だが、触ると柔らかく手で千切れる程で燃やした時に出る煙を吸うことでその効果が出る。
その煙を吸った後に言われたことに従ってしまうらしい。
何かを忘れろと言われれば、その記憶は元から無かったものになり、目は見えないと言われれば目はその機能を停止する。
サファイアが体の中から全て無くなったとしても失った記憶や機能を停止していたものが戻らないこともある。
人としての機能を奪われて廃人と化したのを晴臣は何度も目撃していた。
「サファイアを持ち出すことは可能?」
「かなり厳重に管理されているので難しいかと……あ、たまに燃え残りがあって、それでしたら何かあったらと思い、今も持っていますが」
晴臣さんはジャケットの内ポケットから小さなユニパックを取り出した。
燃えかすの中にまだ燃える前のブルーの塊がある。
「これ、貰ってもいい?」
「どうなさるおつもりで?」
「諒平さんの旦那さんか、拓海さんを通してある研究機関で色々と調べてもらう。犯罪被害に遭った人達を救えるように」
おそらく拓海さんはサファイアのことを名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。
「分かりました。それは静さんに託します。また燃え残りがあった時は回収しますね」
「お願いします」
少し考えてから、新しいメッセージカードにサラサラと書き込むとそれをセロハンテープでユニパックに貼った。
「それじゃ、最初の質問に戻るよ。僕はどんな目に遭いそうかな?」
「それが、ターゲットになられた方は1人1人対応が違いまして、抱き潰された方もいれば、人形の様に着飾るだけの方もいました。ただ、1つだけ共通点がありまして、皆さんサファイアを使われて大切な人を忘れるように言われておりました。それと目と耳も不自由になられた方が多くいらしたかと」
つまり抱かれるかは分からないが、サファイアはまず間違いなく使われて大切な人を忘れさせられるってことか。
僕の場合は鈴成さん、明さん、拓海さん、敦、誠、長谷くん、芹沼くん、ハル先生、諒平さん、風間先生、安藤先輩、星野先輩、雪人……みんなの事忘れちゃうのかな?
忘れたくないけど、聞いた話ではサファイアを使われたら自分の意思なんて関係なさそうだし。
僕はもう一度新しいメッセージカードにサラサラと書き込み、燃え残りの入ったユニパックに貼り直した。
「晴臣さん、ありがとね。大野家に入ったら殆ど話しは出来ないとは思うけどよろしくね」
「静さん、最後に1つ。調教師は吾妻 です。彼も静さんが呼ばれたと知った時、かなり動揺しておりました」
吾妻一樹 も晴臣さんと同様に元は本島家に仕えていた人。
主に僕に付いていたお世話係みたいな人。母親が出かけていない時はいつも一緒にいた人。
「そう。吾妻なんだ。こんな形での再会はしたく無かったな。もちろん晴臣さんもね」
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