127 / 489
第126話.引き止められない理由①
目を覚ますと隣に明さんがいなかった。
隣を触っても冷たくてずいぶん前からいないことが分かる。
仕事の時に使っている隣の部屋にはいなかったので、1階に降りてリビングダイニングに行くと下を向いた明さんがいた。
寝ているのかと思って音を立てないように近づくと、寝ているわけでは無いようだ。
「明さん?」
「しっ………拓海ぃ」
驚いたように顔を上げた明さんは涙を流していた。
「明さん?! 何があったの?」
「静が…出て行った……」
普通に寮に戻るために出て行ったとか、そういうことでは無いようだ。
「それって昨日言ってた御触れとかターゲットが関係してる? 始めから全部教えて」
「拓海、聞こえてたのか?」
明さんは顔を歪めて目の前の僕に抱きついた。
こんなに弱った明さんを見たのは初めてだ。
頭を抱えるように抱き締めて背中をさする。
「落ち着いてからでいいから、話して?」
時計は8時半になろうとしていた。
しばらくして、明さんは抱きついてきた腕を下ろすと、僕を隣に座らせた。
「静が向かったのは大野家だよ」
「大野家って、静くんは随分と嫌っていたようだけど?」
明さんは小さく頷く。
「妹夫婦の死に疑問を持ってるからな。大野家の仕業じゃ無いかって考えていた様だし」
「まさか、身内にそんな事……」
「あのバカ親父には身内なんて関係ないんだよ。全てが自分の思い通りにならないと気が済まない」
事故の原因が実の親なんて……もしかしたら静くんの声や感情が閉じ込められた原因もそこにあったのかもしれない。
「御触れっていうのはあのバカ親父が出したものでな、選ばれた人が大野家に呼ばれる。それをターゲットと呼んでいた」
「嫌なら断ったり行かなければいいんじゃないの?」
明さんは首を横に振る。
「ターゲットに選ばれた人のことはしらみつぶしに調べられる。断ったり行かなければターゲットの大切な人が事故を装って殺されていく。次々とね」
感情が無いような声で淡々と語られる。
「警察は?」
「警察は大野家の言いなりだよ。大野家が起こした事件は全て揉み消されている」
警察は大野家の味方? 弱い者の味方じゃないの?!
「静が行かなかった場合、分かるだろ?」
ともだちにシェアしよう!