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第127話.引き止められない理由②
「鈴?」
「あぁ、鈴成くんが初めの犠牲者になるだろうな。その次は拓海。拓海を助けようとした俺も一緒かな。静の友達は静と同じように大野家に連れて行かれるかも」
自分も殺されるリストに入っていると思うだけで身震いをしてしまう。
「明さんは次期当主でしょ? いくらなんでもそんな人まで手にかけないと思うけど」
「さっきも言ったが身内なんて関係ないんだ。それと次期当主には何の権限もない」
暗に自分に静くんを助ける力はないと言っているようだった。
「大野家に助けに行くことは出来ないの?」
「助けに行くって事は静がそこにいるって知られているって事だろ? それを知っている人物は排除される。結局殺されてしまうだろうな」
大きな力の前には自分なんてちっぽけだ。
助けたい人がいるのに、それが出来ない。
「僕に出来るのはみんなにこの話を隠して、静くんの帰りを待つことだけだね」
「本当に申し訳ないが、俺も静が帰ってくるまで海外に行くことにした」
「え?」
静くんだけでなく明さんもいなくなる?
「静の提案なんだ。静がいなくなってみんなが頼るのは俺の事だろうし、次期当主を守る為にもね」
「次期当主ってそんなに大切?」
次期当主なんて返上して、静くんを助けることを考えて欲しいのに……
「俺だって今すぐにでも辞退したいよ。でも、次期当主が他の人になった場合、静は一生帰ってこられなくなるかもしれない」
「っ?!」
「次期当主になった奴が静を気に入って手離さない可能性があるからな。俺が当主になったら日本国内の事業からは全て撤退する予定だ。仕事の拠点は海外に移す」
明さんは大野家を崩壊させたいと思っているようだ。
「分かった。僕は明さんのことも静くんのことも待ってるよ。浮気したら承知しないからね」
ふと、昨夜の明さんがとても優しかったことを思い出した。
「しばらく出来ないから昨日はあんなに優しかったの?」
「それもあるが、たまには甘やかしたくなったんだよ。それと浮気なんてする訳が無いだろ? もう俺には拓海以外の人は考えられない。でも、拓海が待てないと思ったら捨ててくれて構わないから」
今、待ってると言ったばかりなのに、この人は僕の事を分かっているようで分かってないな
「バカ。僕にだって明さんしかいない! 分かってるでしょ? いつまでも待ってるから、必ず帰ってきて」
どんなに抱き締めても、どんなにキスをしても、どんなに身体を重ねても足りない。
明さんはいつの間にか体の一部になっていたようで、引き裂かれるような気持ちになる。
「分かった。約束する。鈴成くんじゃ無いけど、これ持ってて」
指輪の箱が手に置かれた。
蓋を開けるとステキなデザインの指輪が入っている。
「明さんが付けてよ。外さずにずっと付けてるから。あなたものだって印に」
左手の薬指に指輪が光る。サイズもピッタリだった。
これは別れではなくて、一緒に歩む為に必要な事だと自分に言い聞かせる。
「もう出る時間だ」
「行ってらっしゃい。ずっと待ってるね」
力強く抱き締められ、キスをする。
「行ってくる」
振り向く事なく明さんは出て行った。
ドアがパタンと閉まり静寂が訪れる。
「……嫌だ………行かないで………」
涙と共に呟いた本心は、もう届かなかった。
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