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第144話.◇探したくても探せない

「兄貴、静の行かなくちゃいけないってどこなんだろうな? 自力で帰るから探すなって。何も出来ないのか?」 「拓海さん、静、待たなくていいって。でも僕は待ってたいよ」 「オレも待っててなんて言えないって。オレは勝手に待つけどな」 「鈴、誠くん、敦くん。みんなで待ってよう。大丈夫。きっと戻ってくるよ」 拓海は明が日本を離れたのは、静を助けたくなるからだったんだと思った。 明が動けば、鈴成も敦も誠も動いてしまう。 せっかく静が守ったみんなの命が危険に晒されるのが嫌だったのだろう。 本当なら拓海だって大野家に乗り込んで静を助け出したいと思う。でもそこにいるということでさえ知られてはいけない事で、あの家に近付くこともできない。 今は静がいなくなって傷ついている目の前の3人の心が壊れないようにしないとと、拓海は本来の自分の仕事を思い出した。 「とりあえず、3人とも座らせて貰おう」 「そうね。ソファがいいかしら。座り心地は最高よ」 諒平がソファに乗っていたぬいぐるみを座った誠と敦に渡す。 2人は無意識に受け取ってそれを抱き締める。 何かを抱き締めるという行為は不安があるっていうことだった。 鈴成はソファの端に座って自分のスマホの画面を見つめていた。 「鈴?」 「どうして、誰にも何も言わずにいなくなったんだろうな?」 鈴成は自分が撮った静の写真を見ていた。 そこには、確かに幸せそうな静が写っている。 「行かなくちゃいけないところを知られたくなかったってことだろうね」 「知られたくない?」 「うん」 みんなが危険な目に遭うことを恐れていたから。 本当の事を言えたら拓海の心も楽になるが、そういう訳にはいかない。 「俺は何かに巻き込まれても良かったよ。それでも静と一緒にいたかった」 「鈴先生、オレも同じだよ」 「僕も」 きっと静と仲良くなった人達はみんな同じことを言ってくれるだろう。 それだけ、静がみんなから愛されているということだ。 「僕もそう思うよ」 3人は拓海を見る。 「でも、探さないで欲しいって書いてあったんでしょ? 僕達に出来るのは、静くんのことを信じて待つことだけだと思う。もちろん待つのは苦しいし寂しいけど、帰ってきた静くんを笑顔で迎えられるようにしたいね」 静はどのくらいで帰って来られるのだろう。 拓海はこれから先、静のことでみんなの心が壊れないように寄り添うことを決めた。 静の心が壊れないことを祈って。

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