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第151話.◇空港の出迎え
「僕1人でも大丈夫でしたよ?」
「いいのよ、私も森と会いたかったんだから」
夕方の5時に羽田の国際線到着ロビーで待ち合わせ。
本当なら拓海1人で来る予定だったが、隣には諒平がいる。
到着ロビーへの出口に2人で立っていると、諒平の出で立ちが派手だからか、どうも目立っているように拓海は感じていた。
「あ、いたいた。出迎えありがとね、拓海」
到着ロビーに入ってきた森はSkypeで言っていた通り髪の毛はセットされているが、メガネはかけていた。
それでも美人なのに変わりはない。
「いえ、無事の到着なによりです」
「ちょっと私のことを無視するとかやめてよー」
「諒ちんも、久々だね。まさか諒ちんが結婚するとか思ってなかったよ?」
3人で歩き始めるが、そこにいる人達の視線は殆どがこちらに向いていて、明さんと歩く時と一緒だと思った。
車で来ていたので乗り込むと諒平の家へと向かう。
家に着いてすぐに森はサファイアを見たいと言ってきた。
金庫からそれを取り出して諒平が森に渡す。
ユニパックの上から燃え残りを触っていた。
「柔らかいんだね。硬いと思っていたから意外だな。今すぐにでもラボに行って調べたいところだけど、俺が入れるようになるのは明日からなんだよなぁ。それまでどうしようかな」
「ここに泊まればいいだろ? 伸晃さんもちゃんと紹介したいし」
オネエ口調ではない諒平は、普通にイケメンの男の人だと拓海は思っていた。
「その喋り方の方がしっくりくるな。やっぱりキレるのをどうにかしたくて?」
「まあな。仕事でトラブルばかりは困るし」
2人の会話に水を差すのは悪いが、拓海は遠慮がちに話しかける。
「あの、僕は明日からまた学校も始まるので、この辺で」
「あ! 拓海、これ。渡すの忘れたら明に殺されるところだった」
それは一台のスマホだった。
「明との連絡専用だって。いつでも電話して良いって言ってたよ。時差とか気にしなくていいってさ」
受け取り、嬉しくなる。
これでいつでも声が聞ける。
静と全く連絡が取れない鈴成のことを思い出すと申し訳なくなるが、待っている全員が塞ぎ込んでしまってはいけないと思う。
特に自分は塞ぎ込んだみんなを元気付けなければならない。
それにはまず自分が元気であることが必要だった。
「ありがとうございます! 有馬さん、サファイアの事で何かわかった時は教えて下さいね。僕の患者さんの中にも被害者がいて、未だに苦しんでいるので」
「了解。明にも伝える事にしているから」
「そうなんですね。あと、おそらく静くんもサファイアを使われていると思うんです」
拓海の言葉に森は驚いた。
今、サファイアを持っていることが分かったら刑務所行きは確実な世の中になっている。
「そう。なら気合いを入れて調べないと。あの子の本当の笑顔を見たいからね」
「お願いします!」
森はまずこのサファイアの成分分析から始めて、人体にどんな影響を及ぼすのか、その影響はどうすれば取り除けるのか。調べる順番を考える。
自分の世界に入り込んだ森は、もう周りのことは見えなくなっていた。
拓海は諒平に挨拶をすると、外に出た。
夏がそこまで来ているようだが、梅雨の時期のためジメジメとしている。
拓海は雲が立ち込める空を見上げて、どうか静くんが苦しい思いをしませんようにと呟き目を閉じた。
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