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第152話.◆サファイア2回目

✳︎自傷行為があります。 もう、寝ても良いということが分かった。 それでもまた自分を傷つけるのだろうか。 また鉄の狭い部屋で甘い匂いに包まれる。 『名前を言ってごらん?』 「し…?……明美です」 そう、私は明美。 『大切な人は誰?』 「お父様。とても素敵なの。手術をされたって聞いたわ。早く退院されないかしら。早くお会いしたいわ」 お会いしたら抱き締めてくださるかしら。 そう思って目を開けたら目に入ったのは男の体。 どうして??? こんな体ではお父様に嫌われてしまう。 「どうして私がこんな体をしているの?!」 『明美、大丈夫だから落ち着いて。秀明様は明美の体のことを知っているよ? 知っていてここに呼んだんだ。秀明様は明美を必要としていらっしゃるから』 「本当?」 『本当だよ』 良かった。お父様に嫌われてしまったら私は生きている意味がなくなってしまう。 上にいた他の人達もお父様とそういうことをしているのかしら? いつか私だけを愛して下さるように頑張らなくちゃ。 愛? その言葉が胸に引っかかる。 それをくれた人がいた気がする。 目を閉じると黒い人影が見えるが、お父様ではないと分かる。 お父様を裏切っていた? そう思うと動揺が隠せない。 自分のことが許せなくて、また左腕に爪を立てる。 包帯が邪魔で外す。薬を塗られたガーゼも剥がすと傷の上に爪を立てた。 痛みはお父様への贖罪の気持ちの現れで、それが強ければ強いほど甘く感じる。 塞ぎかけた傷が開き血が流れる。 裏切りの分、血を流せば許される気がした。 眠るのは大丈夫だと分かっていたが、爪を立てることがやめられず、結局また眠ることは出来なかった。 ドアが開く頃にはまた左腕は血まみれになっていた。 入ってきたアガツマという人は溜め息をつく。 「またこんな事をして。昨日も言ったが明美の体は秀明様のものなんだから勝手に傷付けてはいけないよ」 「だって、私はお父様を裏切っていたかもしれないのよ? これはその罰なの」 血まみれにになった腕を見ていると、自分は正しい事をしていると思えた。 血を見て自然と微笑んでいる事に気がつく。 「晴臣、また頼むよ」 「あぁ」 血を見ると心が落ち着く。それなのにまた治療されて、血まみれになった腕はまた白い包帯で巻かれてしまう。 傷は残っても良いの。だって私が悪いのだから。 きっとお父様も分かって下さるはず。 傷を見たくないと言うのならしっかりと包帯を巻いておけば大丈夫。 上に戻ると他の人達が私を見てくる。 居心地が悪いけど、ベッドの上に座って白い壁をずっと見つめていた。

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